労災と自賠責で後遺障害等級14級9号を獲得した事案

2018-09-12

事案の概要

 事故の状況は,通勤中に渋滞で停車していたところ,後続車から追突されたというもので,被害者は,外傷性頚部腰部症候群の傷害を負いました。

当事務所の活動

労災の後遺障害の申請

 事故から半年強が過ぎたところで,症状が残っていたものの症状固定の時期となりましたが,後遺症について加害者から賠償を受けるためには,自賠責保険の後遺障害の認定を受けなければなりません。

 しかし,本件は,骨折や脱臼等の他覚的異常所見があったわけではなかったことに加え,被害車両の損傷の状況から,申請をしたとしても認定を受けられる保証はありませんでした。

 そこで,本件が労災の対象となるものであったため,先に労災で後遺障害の申請をすることとしました。

 結果,労災保険で後遺障害等級14級が認定され,無事に保険給付を受け取ることができました。

自賠責の後遺障害の申請

 労災で無事後遺障害14級9号の認定が得られたため,その結果も添付したうえで自賠責保険に後遺障害の申請を行いました。

 その結果,自賠責保険でも後遺障害等級14級9号が認定され,追加で自賠責保険金を受け取ることができました。

保険会社との示談交渉

 保険会社との交渉では,すでに労災と自賠責保険から受け取った金額を差し引いて請求を行いますが,労災保険給付の中の特別支給金は控除しなくてもよいとされているため注意が必要です。

 交渉の結果,後遺障害部分は約8万円の減額となりましたが,ほぼ請求どおりの額で示談をすることができました。

 

コメント

 交通事故の被害者の場合,労災から保険給付を受ける必要はないように思われます。

 実際,100%被害者の場合で,加害者が賠償金を適切に支払ってくれれば,基本的に損害はすべて補填されますので,そういう意味では,あえて労災保険給付を受け取る必要はないかもしれません。

 ただ,労災保険給付の中には,「特別支給金」と呼ばれるものがあり,この部分については,損害の填補を目的とするものではないとして控除をする必要はないというのが裁判所の立場です(最高裁平成8年2月23日判決)。

 つまり,特別支給金分は,加害者から受ける賠償とは別に受けられることになるのです。この分のメリットは小さくありません。

 もちろん,このことを知ったうえで,労災保険給付を受けないという選択肢があってもいいと思いますが,知らなかったから申請しなかったというのであれば,やはりもったいないと思います。

 また,後遺障害の認定も,基本的に同じ基準を用いているにもかかわらず,判断が微妙な場合は一般的に労災保険の方が自賠責保険よりも認定が出やすい傾向にあるため,自賠責保険で認定が受けられるか微妙なときに,労災で認定を受けるということが考えられます。

 ただし,ここで注意しておかなければならないことは,労災で後遺障害の認定が受けられれば,必ず自賠責保険でも後遺障害の認定が受けられなければならないというわけではないということです。

 自賠責保険の後遺障害の認定は,基本的に労災保険の後遺障害の認定に準じて行われるため,基本的にその結果は一致することになります。

 しかし,両者は審査の方法が異なることに加え,自賠責保険の場合,認定が出ることで国ではなく保険会社が支払いをすることになるため判断が慎重にならざるを得ないという点で違いがあり,判断が微妙な場合は,結果が異なるということも当然あり得ます。

 それでも,基本的に同じ基準で審査されている労災保険で,各種検査が行われたうえで等級が認定されたという事実は軽視はできないので,その資料を自賠責保険への申請の際に添付するということが考えられ,実際,一度自賠責で非該当となったものが,労災の資料を添付して再申請したところ,等級が認められたということもあります。

 以上をまとめると,労災保険を使った場合のメリットとして以下の2つが挙げられます。

 ①労災保険の資料は,自賠責保険の結果を決定づけるものではないが,認定のための資料となりうる

 ②労災保険給付の中には特別支給金というものがあり,その分は賠償金とは別に受け取ることができる

 

 交通事故の賠償の際には,労災保険以外にも各種社会保険制度が関係する場合があり,それによって加害者に請求できる金額が変化することもありますので,実務上の取り扱いがどうなっているのか,きちんと把握しておくことが重要です。

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