自営業者・個人事業主の休業損害の諸問題

2017-01-31

 前回は,役員の休業損害(休業補償)に関する問題について取り扱いましたが,同じように休業損害のことでお悩みの方の中には,自営業・個人事業主の方もいらっしゃいます。

 そこで今回は,役員の場合と同様に,給与所得者の場合とは異なる難しさがある自営業者(個人事業主)の休業損害の問題について見ていきたいと思います。

 

自営業者(個人事業主)と給与所得者の違い

収入関係の把握

 給与所得者の場合,使用者から受け取る給与がそのまま収入であるといえるため,会社から源泉徴収票を取り寄せれば容易に収入状況を把握することができます。

 これに対して,個人事業主の場合には,基本的に確定申告書類の控えを用いて収入状況を把握することになるのですが,必ずしも適切に申告しているとは限らず,その場合,実際の収入を把握することが困難になります。

休業の実態・必要性の把握

 個人事業主と給与所得者の違いとして,まず使用者から労働時間を管理されているわけではないという点が挙げられます。

売上以外の損害

 個人事業主の場合,給与所得者の場合と異なり,休業した場合,売上が減少するだけでなく,日々発生する経費も無駄になる可能性があります。

収入の変動

 給与所得者の場合,給与の額が年によって大きく変動するということはそれほど多くありませんが,個人事業主の場合には,年によって収入が大きく異なるということも珍しくありません。

 

損害賠償上の問題

 損害賠償の請求に当たっては,事故によって損害が発生したことを自分で証明することが不可欠となりますが(「被害者が知っておくべき損害賠償の基本」),個人事業主の場合,上記特徴がありますので,証明をすることが難しいケースも出てきます。

 以下では,その具体例について見ていきます。

 

収入の証明

ア 提出書類

 収入の証明は,基本的に税務署の受付日付印のある確定申告書類を用いて行うことになります。受付日付印がない場合は,課税証明書も付けることが考えられます。

イ 税務申告に問題がある場合

 ここでよく問題になるのが,過少申告をしていたり,そもそも確定申告をしていなかったような場合です。

 税務申告の問題と交通事故の損害賠償の問題は,次元が異なりますので,このような場合であっても請求自体は可能です。

 しかし,収入に関する主張が税務申告のときと損害賠償のときと異なっているということ自体が矛盾するものですので,請求はかなり厳しいと言わざるを得ません。

 このような場合には,客観性の高い会計帳簿類(総勘定元帳,売上台帳,仕入台帳,金銭出納帳など)を用いて,収入の実態を証明していきますが,そのような会計帳簿類が存在せず,証明も不十分である場合には,休業損害がゼロとされる可能性があります。

 仮に,収入の具体的な金額について明確に証明ができない場合でも,就労の実態が証明できる場合には,少なくとも平均賃金を上回るだけの収入を得ていたことが確実であるということが証明できれば,賃金センサスにおける平均賃金額を用いて,ある程度の賠償を受けることは可能です。

 いずれにせよ,適切に確定申告をしていない場合,十分な賠償を受けられる可能性が低くなりますので,確定申告は適切に行っておくことが損害賠償上も重要になります。

休業の実態・必要性の証明

 休業の実態については,売上の減少等の具体的な事情を元に証明をしていきます。

 また,休業が実際にどの程度必要であったのかを証明することはなかなか難しいところですが,受傷の内容・程度,年齢,仕事の内容などを元に判断されることになりますので,これらの事情を元に,医師の協力を得るなどして,休業せざるを得なかったことを的確に説明していく必要があります。

 なお,損害の全ての賠償が認められない場合でも,「〇日間を通じて,〇%の就労制限があった」などとして賠償が認められることもあります。

固定経費の損害

ア どういったものが請求できるか

 個人事業主の場合,自身が休業をせざる得ない場合には,無駄な経費の支出を止めて完全に休業の状態とした上で,売り上げの減少を相手方に請求したいところですが,現実には,地代家賃や租税公課,損害保険料などのように,休業した期間も含めて支払いをしなければならないもの存在します。

 このような支払いは,売上に貢献することなく無駄になるものですので,交通事故による損害として加害者に賠償を求めることができます。

 これは,休業損害(消極損害)とは異なる独立した損害(積極損害)ともいえますが,計算上は,休業損害の基礎日額を計算するときに,固定経費分を考慮して計算するということが多いです。

 逆に,休業をすれば支払いもしなくて済むような経費については,損害に計上することができません。

 費目によっては,ケースによって損害として認められることもあれば認められないこともあるというものもありますので,具体的にどこまで請求できるのかは,弁護士にご相談いただいた方が良いかと思います。

 なお,このような固定経費については,後遺障害逸失利益や死亡逸失利益の損害額の計算に当たっては計上することができませんのでご注意ください。

イ 証明の方法

 上記のように,経費のすべてを計上することができるわけではないことから,費目ごとの経費の金額を信頼のできる書類によって証明しなければなりません。

 一般的には,確定申告のときに提出する書類の中の「損益計算書」を用いますが,それがない場合は,会計帳簿などを用いて証明を試みることになります。

ウ 保険会社との示談交渉

 この点について,保険会社の対応としてよくあるのが,算定の基礎となる金額について,青色申告特別控除前の所得金額を用いるのみで,その他の経費を考慮しないというものです。

 上記のように,事故による休業で無駄になった経費については,賠償が認められるというのが実務の取り扱いですので,きちんと請求していく必要があります。

収入の変動

 一般的には,休業損害ないし逸失利益の金額の算定をする場合,交通事故があった日の前年の収入を元に計算をすることになります。

 しかし,個人事業主の場合,事故の前年の収入が多かった場合は良いですが,事故の前年の収入がたまたま低かったような場合には,通常どおりに計算すると低い収入額をベースに計算されてしまうので,十分な賠償を受けられなくなってしまいます。

 そこで,このような場合には,数年分の資料を用いて,事故当年の稼働能力について証明していきます。

事業所得者の寄与率とは?

 以上のような形で基礎収入が計算されていくことになりますが,事業所得者の場合には,申告所得額の中に,本人の労働とは関係なく得られる家賃収入などの収益があることや,実際には家族の協力があるのにそれに対して専従者給与として労務に見合った適正な対価を支払っていないこともあるなど,交通事故被害者本人の労務に対する対価とは言い難いものが含まれていることがあります。

 このような場合,交通事故によって休業をしたとしても,影響が出ない部分も相当程度あると考えられますので,その分を計算上差し引くことになります(最高裁昭和43年8月2日判決参照)。

 その際,収入のうち,被害者の寄与率は●%などとして計算が行われることが一般的となっています。

 

まとめ

 以上のように,自営業者の休業損害の請求は,様々な点で問題になりうるところであり,実務の状況を正確に理解していなければ,適正な賠償を受けることが難しいところがあり,交渉にせよ裁判にせよ,どのように損害を立証していくのかが非常に重要になります。

 また,保険会社の対応は,一般的に,定型処理が可能な部分に限られ,固定経費の計上や収入の変動といった特別な事情については考慮されないことが多いです。

 そのため,自営業者・個人事業主の方で,交通事故を原因とする休業でお悩みの方は,交通事故に強い弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

【参考文献】

別冊判例タイムズNo.38

2001年・2014年版 赤い本下巻