過失割合を争いたい方へ
交通事故の被害にあわれた方の中には,相手方の保険会社が言ってきた過失割合に納得できない!という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一般的に言われる過失割合とは,過失相殺率のことを指し(厳密には両者は異なります。),過失相殺とは,平たくいうと,被害者に生じた損害について,加害者が全額支払いをするのではなく,被害者の落ち度の分差し引きますよ,というものです。
過失相殺率は,この差し引きの割合のことを指しています(このページでは,一般的に用いられる過失割合という用語を使って説明を行います。)。
そのため,被害者に生じた損害の額が100万円だったとしても,自分の過失割合が20%あるとすると,支払われる金額は80万円ということになってしまいます。
過失割合は被害者にとって厳しいことも多い
横断歩道を横断中の歩行者と自動車の事故であればともかく,一般論としては,自動車同士の事故で,被害者側の車も動いているような場合は,赤信号無視のような例外的な場合を除き,何らかの被害者側に何らかの過失が認められてしまうことが多いです。
被害者としては,自分は被害者なのに非を責められているような感覚になるため,納得感が得られにくいところでもあります。
なぜそのようなことが起こるのかというと,厳密に交通ルールを守っていると言える人が意外と少ないからです。
代表的なものは法定速度だと思いますが,その他にも,一般的に前方を注意して運転する義務があるので,車が飛び出してくる可能性があるところでは,注意して走行しなければなりません。
例えば,相手に一時停止の規制があるようなところでは,自分が走っているのは減速せずに走っていい優先道路だと思っている人が多いのですが,道路交通法上は,見通しの悪い交差点では,一時停止の規制がない側の車にも徐行義務がありますので(法42条1号),これは誤解です。
特に減速しなかったとしても,ほとんどの場合,事故は起きないかもしれません。
しかし,いざ事故が起きてしまったら,徐行せずに道路を走行しておいて,「自分は優先道路だから過失はないはずだ」と言っても,ルールを守っていないので基本的に0対100とはならないわけです。
「一時停止しなかった方が悪い」というのはその通りですが,それは過失割合の中で考慮されていて,いうまでもなく,一時停止無視の車両の方が過失は大きいです。しかし,被害者の過失も「ゼロにはならない」ということです。
そのため,過失割合は,追突事故や赤信号無視のような場合を除き,被害者の感覚よりも若干厳しくなることが多いと言えるでしょう(そもそも感覚の問題なので,感じ方は人それぞれの部分ではあります。)。
保険会社が使う基準
保険会社は,一般的に別冊判例タイムズNo.38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(判例タイムズと略します。)という本を参考に過失割合を定めています。
例えば,「信号機がなく一方に一時停止の規制がある交差点で,同じ程度の速度で走行する自動車同士の事故であれば,20対80」といった形で数字が示されています。
これは,タイトルを見ていただければ分かるとおり,過去の裁判のデータを中心にして作られたものであり,東京地方裁判所の裁判官が執筆したものです。
各過失割合は、道路交通法を中心とした各種法令をベースに、現実的な事故回避の可能性などを考慮して定められています。
(⇒「道路交通法と過失割合の関係」)
交通事故に関する争いを豊富に取り扱ってきた裁判官が,最終的な結論としてどう考えれば良いのかの指針を示したものですので,弁護士はもちろん,裁判所も参考にしているものです。また,保険会社も常備しています。
そのため,この基準によって示されたものであれば,一応妥当といってよいので,過失割合を動かすのは基本的に難しいと考えていただいて良いです。
しかし,保険会社の言い分がおかしいことも少なからずありますので,その場合,交渉が必要となります。
基準がそのまま使えない場合
問題となるのは,この基準をそのまま使うことができないような事情がある場合です。
典型的なのは,判例タイムズで示された事故状況のいずれにも当てはまらない場合です。
この場合,判例タイムズの基準の中で,できるだけ近いものを参考にしたり,過去に似た事例がなかったか調査を行い,それにもとづいて相手方と交渉していかなければなりません。
調査の結果,類似のケースが見つかれば良いのですが,そのようなケースが見つからなかった場合,交渉は非常に難しいものとなります。
基準が修正される場合
判例タイムズには,基本的な過失割合だけではなく,事情によって過失割合が修正される場合についても記載されています。
この点については,保険会社は必ずしも考慮してくれないことがあるので注意が必要です。
例えば,無免許運転や徐行なし,幹線道路上の事故といったものがあります。
特に,わき見運転等については見逃されることが多いですので,根拠を示してきちんと述べていく必要があります。
事故状況が争いになっている場合
過失割合を決めるためには、その前提として、事故の状況がどのようなものであったのかが判明していなければなりません。
被害者と加害者の言い分が一致していれば問題ありませんが、過失割合が争いになっているケースの場合、事故の状況自体について双方の言い分が食い違っていることが少なくありません。
また、事故状況に争いになっているということは、通常、ドライブレコーダーのような客観的な記録がないということを意味しますので、このようなケースでは交渉が難航し、紛争が長期化する傾向にあります。
過失割合の賠償への影響
過失割合が最初に問題になるのは物損の部分です。
物損で損害が修理費用相当分であれば,保険会社から賠償金が速やかに支払われるのが通例です。
しかし,過失割合に争いがあると,修理費用の支払額が確定しないため,話が先に進まないということになります。
弊所に過失割合の件でご相談いただく場合も,物損に関して問題となっていることが多いです。
また,過失割合は,物損だけでなく,人身損害にも適用されることになります。
ここで,注意しておかなければならないのは,過失割合が問題となるのは慰謝料や休業損害だけではなく,治療費についても影響するということです。
この点は十分に認識されていない方が多いのですが,過失割合が20対80というように,比較的相手の方が過失が多い場合,治療費ついて全額が保険会社から医療機関に支払われていることが多いと思います。
そのため,費用を気にせず通院をされている方がほとんどだと思います。
しかし,既に述べたように,治療費についても過失割合は影響しますので,例えば,治療費が100万円かかったとすると,相手が負担しなければならないのは80万円ですので,本来,20万円は自己負担となります。
それなのに,なぜ保険会社が全額治療費の支払いをしてくれるのかというと,最終的に支払う慰謝料の金額を計算する際に,被害者の自己負担分を差し引くことができるからです。
つまり,結局,自分の過失分については,最終的に自分で負担することになるのです。
その結果,過失割合が0対100であれば,100万円の慰謝料が支払われたような場合でも,過失相殺が20%認められてしまうと,80万円どころか,治療費の自己負担分も差し引かれて,金額が大きく下がるということがあり得ます。
このように,過失割合は,損害額全体に影響を及ぼすため,非常に重要な事項であるといえます。
なお,自分に過失が認められるような場合には,健康保険を利用するなどして,治療費が膨らみすぎないようにするということも検討するのもよいでしょう。
また,労災が適用されるケースでは,健康保険を利用することはできませんが,計算上,治療費の過失分の負担がなくなるという大きなメリットがあります。
弁護士による交渉
そもそも判例タイムズが想定していないような事故の場合,過去の大量の事件データを調査する必要がありますので,弁護士に依頼された方がよいでしょう。
また,過失割合について争う場合,事故の状況を正確に把握する必要があります。このときに重要になるのが,警察が作成した刑事事件記録です。
刑事事件記録によって,事故現場の状況や,事故直後の相手方の警察に対する説明等が明らかになることがあり,ここで相手方のわき見運転が明らかになることもあります。
そこで,弁護士が交渉していく際にも,この刑事事件記録を取り寄せて交渉をしていくことが多いです。
こういった調査・交渉を進めた結果,過失割合が変更されるということも十分あり得ます。
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