肩関節可動域制限の後遺症で逸失利益を540万円から1260万円に増額した事案

2024-10-29

事案の概要

 本件は、歩行者が見通しの悪い道路を横断しようとしたところ、右側からきたバイクに衝突されたというのものです。

 被害者は、左上腕骨近位端骨折などの傷害を負いました。

 本件は加害者が無保険という問題があったため、自身で加入されていた人身傷害保険によって治療費などの補償を受けていましたが、左上腕骨近位端骨折後の左肩関節機能障害等が後遺障害として残存しました。

 人身傷害保険会社の事前認定により、後遺障害12級6号が認定されましたが、金額に疑問を持たれたため、弊所にご相談いただきました。

 

弁護士の活動

後遺障害認定

 本件は、人身傷害保険の事案でしたが、人身傷害保険の場合でも、事前認定により後遺障害等級の認定を受けることができます。

 本件では、肩関節機能障害が「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として自賠法施行令別表第二第12級6号が認定されました。

 他に左肩痛も後遺症として残っていましたが、これは機能障害と通常派生する関係にあるため、機能障害の認定に含まれて評価されることになります。

保険会社との交渉

 人身傷害保険の場合、慰謝料の計算方法は契約(約款)で定められていますので、一般の交通事故の事案のように、保険会社と交渉して増額させることはできません。

 しかし、後遺障害逸失利益については、後遺障害の内容や被害者の仕事の内容、実際の減収の有無などによって増減しうるので、保険会社との間で見解の相違が生じることがあります。

 本件では、被害者のデスクワークが中心という仕事の内容で実際に収入の減少も見受けられなかったため、肩関節機能障害による収入への影響がほとんどないのではないかという点が問題とされ、かなり低い金額が提示されていました。

 弁護士が介入し、交渉を行ったところ、若干の増額はみられましたが、想定していた金額を大幅に下回ったため、やむを得ず人身傷害保険会社に対して訴訟を行うこととなりました。

 また、訴訟提起に先立って、自賠責保険の被害者請求を行い、最低限の保険金を確保しておきました。

裁判所での和解

 裁判を行った場合、交渉の場合よりも厳格に説明や証明を求められることになります。

 本件のような後遺障害の逸失利益が問題となる場合、どのような形で仕事に支障があり、現実に損害が発生しているのかを丁寧に説明する必要があります。

 様々な主張・立証を尽くした結果、最終的には、後遺障害逸失利益を当初の540万円から1260万円に大幅に増額させた形で保険会社と和解することができました。

ポイント

 後遺障害逸失利益は、後遺症によって仕事に支障が生じ、その結果収入が下がってしまうことの損害を補填するものです。

 したがって、減収が生じていることが大前提となります。

 ところが、(特に後遺障害の程度が比較的軽微な場合)後遺症があっても仕事は問題なくこなしているということが少なくありません。

 そこで、減収がない場合の後遺障害逸失利益をどう考えるか、ということが、交通事故事案の実務上、主要なテーマとしてこれまでに多くの議論が行われてきました。

 これを考える場合、後遺障害逸失利益というのが、どんな損害を補填しようとするものなのかを基本に立ち返って考え、過去の裁判ではどのような点が考慮されて判断されているのかを吟味する必要があります。

 そうすることで、実際の裁判で何を主張しなければいけないのかが見えてきますし、弁護士の視点でいうと、依頼人からどのような事情を聴き出さなければいけないのかが分かってきます。

 この点は、弁護士によってかなり違いが出てくる場面ではないかと思います。

 当事務所では、人身傷害保険の場合でも、後遺障害逸失利益の増額交渉をお受けしておりますので、金額にご不明な点がございましたらお気軽にお問い合わせください。

 

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