高次脳機能障害の後遺障害
目次
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは,脳損傷による認知機能の障害の総称のことをいい,次のような症状がみられるもののこといいます。
・認知障害
認知障害とは,新しいことを覚えられない,気が散りやすい,行動を計画して実行することができない,といったことです。
・行動障害
行動障害とは,周囲の状況に合わせた適切な行動ができない,複数のことを同時に処理できない,職場や社会のマナーを守れない,話が回りくどく要点を相手に伝えることができない,行動を抑制できない,危険を予測・察知して回避的行動をすることができない,といったことです。
・人格変化
人格変化とは,自発性の低下,気力の低下,怒りやすくなる,自己中心的になるといった変化が起こることです。
自賠責保険における等級認定
自賠責保険において認められる高次脳機能障害は脳の器質的損傷が前提となっており,主に,脳外傷によるびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷等)を原因とするものが問題となります。
脳外傷による高次脳機能障害について後遺症の認定申請を行った場合,損保料率機構内の「自賠責保険審査会 高次脳機能障害専門部会」によって審査が行われます。
自賠責保険では,程度によって,1級,2級,3級,5級,7級,9級の等級が認定されることになります。
この認定の基準は以下のように示されています。
障害認定基準 | 補足的な考え方 | |
1級 | 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」 | 「身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために,生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの」 |
2級 | 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの」 | 「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって,1人で外出することができず,日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄,食事などの活動を行うことができても,生命維持に必要な身辺動作に,家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」 |
3級 | 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの」 | 「自宅周辺を一人で外出できるなど,日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また,声掛けや,介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力,新しいことを学習する能力,障害の自己認識,円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって,一般就労が全くできないか,困難なもの」 |
5級 | 「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」 | 「単純繰り返し作業などに限定すれば,一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり,環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており,就労の維持には,職場の理解と援助を欠かすことができないもの」 |
7級 | 「神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外に労務に服することができないもの」 | 「一般就労を維持できるが,作業の手順が悪い,約束を忘れる,ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」 |
9級 | 「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」 | 「一般就労を維持できるが,問題解決能力などに障害が残り,作業効率や作業持続力などに問題があるもの」 |
認定のポイント
1 画像
脳の器質的損傷の判断にあたっては,CT,MRIが重視されています。
CTは,頭蓋骨骨折,外傷性クモ膜下出血,脳腫脹,頭蓋内血腫,脳挫傷,気脳症などの診断は可能ですが,びまん性軸索損傷のような細かい脳損傷の場合にはCTではとらえることが難しく,MRIの撮影が望ましいとされています。
受傷後早期に行ったMRIではとらえることができていた小さい損傷が,受傷後3,4週間経過すると消失することがありますので,受傷後早期にMRI検査を受けることが非常に重要となります。
受傷後2,3日以内にMRIの拡散強調画像DWIを撮影することができれば,微細な損傷でもしっかりととらえることがあるとされています。
また,事故後ある程度期間が経過した時点でも,MRIやCTの経時的検査によって,脳室の拡大や脳全体の萎縮が確認されれば,びまん性軸索損傷を認めることができるとされています。
自賠責保険の考え方では、この画像上の異常所見が存在することが認定のための前提となっていますので、これがない場合は、基本的に後遺障害認定を受けられないということになります(ただし、「MTBI」の問題がありますので、今後も認定を受けられないとは限りません)。逆に、脳の器質的病変がある場合には、高次脳機能障害の有無が審査対象となってきます。
2 意識障害
脳外傷による高次脳機能障害は,意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいことから,受傷直後の意識障害の程度・期間がどの程度であったのかが重要となります。
この点は、後遺障害認定にあたって非常に重視されているところであり、画像上も異常が確認できず、意識障害もないということになると、高次脳機能障害として認定される可能性は低いということになります。
診断上は,JCSあるいはGCSという数値から意識障害の程度を把握することができます。
3 診療の記録
後遺障害の認定は,主に医師が作成した資料によって行われることになるため,事故直後からの意識障害の状態や,CTやMRIの検査記録,認知能力の低下や人格の変化を把握するための各種検査(ウェクスラー成人知能検査,WCST(ウィスコンシン・カードソーティング・テスト),矢田部・ギルフォード性格検査等),医師による意見書,後遺障害診断書,といった資料が極めて重要となります。
4 家族等による生活状況の報告
被害者の事故前と後での変化や,日常生活の様子などについては,身近にいる人が一番良く把握していることです。
そのため,被害者の生活の状況について,そういった人に書面にしてもらうことで,より実態に即した等級の認定を目指すことができます。
高次脳機能障害は見逃されやすい
日常生活ではそれほど問題がないということもあり,被害者本人に症状の認識が全くないことや,家族も障害に気づかないということもあります。
特に、子供が被害者となっている場合、高次脳機能障害の性質上、実際に生活に支障が生じてくるのが、進学や就職のタイミングであったりして、発覚が遅くなることもあり得ますので、脳外傷があった場合、変わったことがないかご家族が注意深く観察するようにしてください。
損害賠償の請求は弁護士にお任せください
また,高次脳機能障害は,一見明白な脳表面の損傷がないこともあり,医師が見逃すことがあります。その場合には,適切に事故による後遺障害として認定を受けることが難しくなります。
高次脳機能障害は,最初は気付きにくかったとしても,発症した場合に実際に生じる損害は非常に大きいものです。
そのため,仮に,自賠責保険で等級が認定されたとしても,損害賠償の金額について相手方と争いになることが少なくありません。
高次脳機能障害は,適正な認定を受けるために注意すべき点が多くありますので,脳にダメージを負った可能性がある場合には,まずは弁護士にご相談ください。
後遺障害の申請と賠償請求についてしっかりとサポートさせていただきます。
なお,ご相談は無料で承っておりますので,お気軽にお問い合わせください。
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参考文献「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」