後遺障害14級9号【肩関節脱臼後の疼痛】で140万円→280万円
事案の概要
自転車で道路を横断中,右折してきた四輪車にはねられたというもので,被害者は,肩関節や足関節の靭帯損傷といった傷害を負いました。
その後,通院加療を続けていましたが,肩関節の痛みが後遺症として残ることとなりました。
当事務所の活動
依頼前の状況
本件では,依頼の前に,事前認定により後遺障害等級14級9号が認定され,賠償金額として約140万円が提示されていました。
しかし,保険会社の算定の仕方が妥当なのか疑問に思われたため,ご相談となりました。
後遺障害等級の検討
本件は,そもそも後遺障害等級が14級9号でよいのかということをまず検討する必要がありました。
骨折・脱臼を原因とする痛みなどの神経症状に関する後遺障害は,後遺障害等級14級9号のほかに,後遺障害等級12級13号が認定される可能性があります。
14級9号と12級13号の違いは,訴えている症状について,関節面の不整や骨癒合の不全等といった他覚的に確認することのできる原因が存在するかという点にあります。
本件の場合,主治医から,レントゲン上は特に問題がないという説明を受けていたことと,異議申立てをするためには時間と若干の費用が発生することになるため,後遺障害等級は14級を前提として示談交渉を行うことになりました。
示談交渉
本件で,相手方の示した金額で問題があったのは,通院慰謝料(傷害慰謝料)と後遺障害慰謝料でした。
後遺障害逸失利益については,計算方法については疑問があったものの,計算結果は低いとは言い難いものでした。
具体的には,本来であれば,被害者が症状固定時に16歳であり,労働能力喪失期間を考える際,稼働開始までの期間分を控除するという処理が必要となるため,例えば,労働能力喪失期間が10年であれば,対象となる期間は,10年間から18歳(一般的に稼働開始可能と考えられる年齢)までの2年間を引かなければなりません。
この処理は,単純に10から2を引くのではなく,中間利息を控除したライプニッツ係数を用います。
ところが,相手方は,労働能力喪失期間を5年としながら,この5年のライプニッツ係数をそのまま用いていました。
これは,実質的には労働能力喪失期間として7年を認定したのと同様になります(最終的な計算結果は,中間利息控除の関係で,7年で計算したよりも高くなります)。
一般的に後遺障害等級14級9号の場合,労働能力喪失期間を就労可能年限までではなく,一定期間の制限されることが多く(むち打ち以外の場合は例外あり),若年者の場合,回復が期待できるため,その可能性も高まります。
そうすると,労働能力喪失期間が実質7年とされるのであれば,決して不当とはいえません。
また,相手方は,逸失利益の計算にあたって,全年齢の女性労働者の平均賃金を用いていました。
労働能力喪失期間に制限のない後遺障害であれば,この数値を用いることが想定されるのですが,労働能力喪失期間が制限される場合で,被害者が若年者の場合だと,後遺障害の影響を受ける時点の収入は,働き始めたばかりの頃で,全年齢の平均賃金よりも低くなることが想定されます。
したがって,逸失利益算定のための基礎となる基礎収入の額も,厳密に考えると,全年齢の女性労働者の平均賃金よりも低くなる可能性がありました。
以上の点を考慮すると,相手方から示された逸失利益の額は低いものとはいえないのではないかと考えられました。
そこで,示談交渉の対象を慰謝料の部分に絞ることとしました。
その結果,最終の支払額が約280万円となって示談が成立することとなりました。
ポイント
保険会社から示される金額は一般的には低いことが多いのですが,若年の学生が被害者となった場合のように,単純な計算とはならないような場合,むしろ裁判をするよりもいい条件なのではないかと思われることがあります。
一方で,慰謝料のような算定が単純なものについては,ほぼ例外なく低い金額が示されます。
示談交渉では,やみくもに相手の見解を否定するのではなく,論点を絞って交渉を進めることが有効な場合があります(そうすることで,解決までの時間も早まるというメリットもあります。)。