交通事故の損害賠償でよくある誤解について
インターネットが発達した現代社会においては,交通事故の損害賠償についても,一般の方が容易に情報を取得することができるようになりました。
私も,交通事故の被害者が,保険会社や弁護士に任せきりにするのではなく,ご自身でも情報を収集することは大事なことだと思います。
しかし,情報を有効に活用するためには,情報が持つ意味を正確に理解しておく必要があります。
前回は,そういった情報の中でも自賠責保険がどういった特徴を持つのか,任意保険と比較しながら見ていきました。
今回は,弁護士として交通事故の損害賠償についてご相談をお受けしているときに,自賠責保険に関連する情報によって誤解されていることが多いと感じることについて触れていきたいと思います。
通院の回数が多いほど慰謝料の金額が大きくなる。
① 自賠責保険の考え方
自賠責保険では,慰謝料の計算方法として,1日単価4200円に通院期間または通院実日数×2のいずれか小さい方をかけるというものを用いています。
このことがインターネットなどで広く浸透しているためか,通院をすればするほど慰謝料の金額が大きくなると考えられていることがあります。
しかし,これは大きな誤解で,前回述べたように,自賠責保険は公平かつ迅速に最低限の補償を行うためのものであるためこのような簡便な計算方法をとっているに過ぎません。
② 法律で認められる損害賠償の考え方
実際に正確に慰謝料の金額を算出する場合には,通院の日数以外にも様々な事情が考慮されることになります。したがって,通院の日数が多いからといって慰謝料の額が大きくなるわけではありません。
むしろ,必要もないのに頻繁に通院をした場合,過剰診療に当たるとして,後で治療費の返還を求められるか,賠償金の計算の際に差引き計算をされる可能性すらあります。
③ 望ましい通院の仕方について
通院はあくまでも治療の必要があるためにするものであって,慰謝料の額を吊り上げるために行うものではありませんので,当事務所にご相談に来られた被害者の方にも,その旨をご説明するようにしています。
では,過剰診療のリスクを考えて,無理をして治療の回数を減らした方がいいのでしょうか?
それは無理に通院するのと同じくおすすめできません。
損害賠償請求に当たっては,なんといっても証明が重要です。
被害者が痛い,苦しいと言っただけで請求が認められるわけではありません。
この証明にあたって,コンスタントに医師による診察や必要な治療を受けていたことと,その際に作成される診断書やカルテが重要となってきます。
そのため,症状があるのであれば,あまり間を置かずに定期的に通院をして診察と治療を受けるようにしましょう。
結局のところ,必要以上に通ったり,無理に通院を控えるのではなく,常識的な範囲で通院を続けるということが大事であるということになります。
時間の都合で病院への通院が難しい場合は,医師に話した上で,整骨院への通院を併用するということも考えられますが,その場合でも,病院での診察も定期的に受けることをおすすめします。
4200円に通院日数をかけた額が支払われないのは,自賠責基準よりも低くおかしい。
これもよくある誤解なのですが,自賠責保険は,上限額がある中で簡易な計算方法を定めているに過ぎず,元々,基準にしたがって計算された額を満額支払うことを予定しているわけではありません。
そのため,通院が長期化した場合,むしろ自賠責の計算方法にしたがった方が,裁判で通常認められる慰謝料の金額よりも大きくなることすらありますが,実際には上限額との関係で満額が支払われるわけではないのです。
したがって,自賠責基準=低い基準と見るのではなく,具体的に妥当な金額がいくらなのかを自賠責基準から離れて検討することが必要となります。
被害者は自賠責基準を知らなければならない
交通事故についてご相談をお受けしていると,慰謝料の額の1日単価が4200円であることや傷害部分の自賠責保険金の上限が120万円であることについて気にされている方が多くいらっしゃいます。
しかし,被害者が請求することができる金額は,法律とそれに基づいて認定する裁判所によって決められるものであって,自賠責保険で決められるものではありません。
したがって,相手の保険会社に請求できる金額がいくらなのかを考える際に,自賠責保険の基準を考慮する必要はないということになります。
もっとも,ケースによっては,裁判で賠償金を求めるよりも自賠責保険で受け取ることができる金額の方が大きいこともあり,そういった場合には,相手方に請求するのではなく,自賠責保険で満足することの方がむしろ良いということになります。
この場合,自賠責保険でどのような金額が支払われるのかを事前に把握しておくことが重要になります。
それでも,被害者の立場で相手方に賠償の請求を検討している場合,通常は自賠責保険からの支払よりも相手方に請求できる金額の方が大きいことがほとんどですので,そのような場合に,被害者が自賠責保険の基準にこだわる実益はほとんどないといえます。
まとめ
いかがだったでしょうか。自賠責の基準は,明確であるがために手にすることができる情報の中でもかなりインパクトがあるものです。
しかし,その情報を知っていたからといって相手方への損害賠償の請求上有利になるかというと必ずしもそうではありません。
交通事故の損害賠償に関する情報も様々で,取捨選択をすることはなかなか難しいところがありますので,交通事故の件でお困りの場合は,交通事故事件に詳しい弁護士にご相談ください。