死亡事故の慰謝料の相場について詳しく解説します

2025-04-15

死亡慰謝料の基本的な考え方

 交通事故で被害者が亡くなった死亡事故の場合、慰謝料の額も高額になります。

 死亡事故の慰謝料は、一般的には被害者が家族の中でどのような立場にあったのかによって変わると言われていて、①「一家の支柱」が2800万円、②「母親、配偶者」が2500万円、③その他(独身者、子供、幼児等)が2000万円~2500万円というのが相場であると言われています。

(日弁連交通事故相談センター東京支部『2025年版 損害賠償額算定基準』(赤い本)』205頁より)

※③の「その他」に幅があるのは、被害者が子供である場合もあれば高齢者である場合もあり、実際に裁判で認められている金額にかなりの幅があるためです(若年者は高額になる傾向にあると言われています)。

 ただし、個々の被害者の家族との関係や事故態様、加害者側の態度など、様々な事情によって死亡事故の慰謝料の金額は変動するとされており、実際に裁判所で出された金額を見ても、かなりの幅が見られます。

 そこで、ここでは具体的な事例でどのくらいの死亡慰謝料が認められてきたのかについて、実際に最近の令和4年から令和5年の間に出された判決を調査した結果を踏まえて解説します。

死亡慰謝料額の調査結果

最近の裁判の全体的な傾向

 まず、裁判所が認定した死亡慰謝料の全体的な傾向ですが、概ね上記の目安金額に沿った判断がされているといえます。

 その中で、飲酒運転や、加害者が不合理な弁明を行ったりするなど、加害者が強く非難されるべき事案の場合には、上記の目安を超えて高額の慰謝料が認められています。

 例えば、大阪地裁令和5年11月17日判決では、原付バイクに乗った被害者が赤信号で停止していたところ、無免許・飲酒運転の加害自動車に追突され、そのままビルの壁まで進んで圧し潰された挙句、救護義務を果たすことなく加害者が立ち去ったという事案で、死亡慰謝料として3300万円が認められています。

 他にも、東京地裁令和5年10月27日判決の、アクセルとブレーキを踏み間違えて自車を加速させ、赤信号無視をして、青信号で横断歩道を横断していた母子をはねて死亡させたという事案では、過失の大きさや刑事事件において自身の過失を一向に認めようとしなかった加害者の態度などを考慮して、母子それぞれに死亡慰謝料3100万円が認められています。この事案は、ニュースなどで大きく報道されていましたので、ご存知の方も多いと思います。

実際の認定のされ方

 死亡事故の場合、亡くなった被害者本人の慰謝料に加え、大切な家族を失った遺族(近親者)固有の慰謝料というものが認められ、これらは、計算上は区別されるというのが基本的な考え方です。

 では、遺族の数が多ければその分トータルで支払われる慰謝料の額が多くなるかというとそういうわけではなく、上で示した目安の金額は、被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料の額を合算したものとされています。

 つまり、遺族の数によって慰謝料の合計額が変わることは予定されていないということです。

 例えば、一家の支柱であった被害者が事故で亡くなった場合、目安によれば慰謝料の額は2800万円ですが、残された家族が、妻と子供2名であるというような場合、被害者本人の慰謝料が2400万円、妻の慰謝料が200万円、子供の慰謝料が100万円×2となり、合計が2800万円などとされます。

年齢による違い

 遺族の数によって慰謝料の総額は変わらないと言いましたが、実際に裁判例を見てみると、20代など若くして被害者が亡くなったケースで、配偶者や子供がいる場合、その親もまだ存命であることが少なくなく、そうした場合、子供に先立たれた親の苦痛は想像に難くないため、こうした親の慰謝料の額を合算すると、上記の目安の金額を超えるということも多いです。

 このような点も考慮すると、やはり被害者が若い場合に慰謝料の額が大きくなりやすいということは言えると思います。

 その反面、高齢者が被害者となった場合、事故当時に同居する配偶者がいた場合でも、2500万円を下回る金額しか認められないケースが散見されました。

 やはり、年齢によって死亡慰謝料の額に違いが出ると考えた方が良さそうです。

 ただ、被害者が高齢であった場合でも、会社の代表取締役として相応の報酬を得ていたような場合には、比較的大きな慰謝料が認められているものもありますので、よく事案を分析する必要があります。

まとめ

 最近の死亡事故の裁判の傾向を見ると、目安となる基準から大きく増減することは多くないと言えそうです。

 ただ、特に事故状況や相手の態度など、軽微な事故ではあまり慰謝料の額には関わらないような事情でも、死亡事故の場合は数百万円単位で違いが出ることがあるので、交渉を行う場合には、こういった事情を漏らさずに言っていく必要があります。

 また、以前から指摘されているところですが、被害者が高齢者である場合、若年者の場合と比較すると慰謝料の額が低くなる傾向にはあるようです。

 しかし、被害者が高齢者の場合でも、基準によれば死亡慰謝料が2000万円くらいまで下がってもおかしくないところですが、そこまで低い金額となっていることは珍しいので、高齢者だからといって上記の基準から2000万円まで下げることは応じがたいところです。

 死亡事故の場合、考慮しなければならないことが多岐にわたりますので、示談の前に弁護士にご相談していただくことをおすすめします。