歯科の後遺障害
交通事故で顔をシートなどにぶつける、転倒して地面に顔をぶつけるといった結果、歯を折ったりすることがあります。
歯を折ったり失ったりしてしまうと、完全に元通りというわけにはいきません。
元通りに戻らないものは後遺症ということになりますので、後遺障害の認定対象となります。
認定基準
後遺障害は、認定基準では、「歯科補綴を加えたもの」が認定の対象とされています。
等級は、3歯以上で14級2号、5歯以上で13級5号、7歯以上で12級3号、10歯以上で11級4号、14歯以上で10級4号となっています。
「歯科補綴を加えたもの」とは、現実に喪失(抜歯を含む)または歯冠部の体積の4分の3以上を欠損したもののことをいい、治療のために大部分を削ったようなものも含みます。
虫歯の治療などで、元々後遺障害の基準に達するような歯の状態だった人が、事故でさらに歯を失ったり削ったりした場合、元々の障害を含めて後遺障害等級を決定した上で、元々の障害分を差し引くという処理を行います。
歯科の後遺障害診断書は、通常の後遺障害診断書とは異なり、歯科専用のものを用います。
この後遺障害診断書に、記入の際の注意点が書かれていますので、主治医に要領をしたがって記載してもらいます。
賠償上の問題
通常、後遺障害が認定されると、「逸失利益」と「後遺障害慰謝料」が賠償の対象として追加されることになります。
逸失利益
このうち、逸失利益は、後遺障害によって収入の減少が見込まれる場合に、事故がなければ受け取れたと考えられる収入額との差額を請求するものです。
つまり、後遺障害によって仕事へマイナスの影響が出ていることが前提となっています。
歯科の後遺障害の場合、治療をしても仕事にマイナスの影響が残るような状況は想定し難いため、逸失利益は認められない傾向にあります。
例外的に、歯をくいしばって力を入れるような職業等、歯の障害によってパフォーマンスの低下が考えられるような場合には、逸失利益の請求が認められる可能性がありますが、現在の職業や実際の業務への影響等を丁寧に説明する必要があります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料については、逸失利益が認められないにしても、日常生活で様々な不便が生じる可能性がありますし、歯を大きく削ることで、歯の寿命を縮めることも考えられますので、通常の等級に応じた後遺障害慰謝料よりも増額される可能性があります。
インプラント
最近では、歯の治療としてインプラント治療が用いられることがありますが、費用が高額になるため、その必要性が問題となります。
裁判例では、インプラント治療の必要性を認めて、その治療費の賠償を認めた上で、将来のインプラントの更新・メンテナンス費用まで認めたものもあります。