事故発生~解決の流れ

 交通事故に遭われた方は,普段接することのない保険の仕組みや手続きのことなど,分からないことが多くあることと思います。

 ここでは,交通事故で怪我を負った後の示談成立までの大まかな流れについて弁護士がご説明します。

事故の発生

 交通事故が発生した場合,まずは警察に事故が発生したことを知らせなければなりません。

 これは直ちに行う必要がありますので,事故現場で警察に電話します。

 また,保険会社にも早い段階で連絡をしましょう。

 警察による捜査については、事故当日に現場で話を聞かれることもありますが、救急搬送されたような場合には、後日実況見分を行うことになります。

 実況見分は、被害者が診断書を警察に提出し、人身事故への切り替えを行うと実施されることになります。

治療の開始

 加害者が任意保険に加入していた場合で,被害者側の過失が小さい場合には,保険会社が医療機関に対して治療費の支払いを直接行うことが一般的です(※)。

 任意保険は,自賠責保険の上乗せ保険であるため,治療費を全額支払う必要は必ずしもないのですが,便宜上,このような対応がとられています。これを一括対応と呼びます。

 医療機関が保険会社に対して治療費の請求をする場合,金額のほかに被害者の怪我に関する情報等をあわせて知らせることになります。

 このときに、医療機関は自賠責保険の様式にしたがって診断書・診療報酬明細書の作成をします。整骨院・接骨院の場合は、施術証明書という様式になります。

 この診断書・診療報酬明細書によって、被害者が負った怪我の内容、医療機関で実施された治療内容、治療費の金額を知ることができます。

 被害者の身体の状態などは重要な個人情報(プライバシー)となりますので,医療機関は,このような対応を行うのに先立って,被害者から医療機関に対して,保険会社に対してこれらの情報を開示することを認める「同意書」を提出することを求めてきます。

 この「同意書」は,保険会社が準備をしてくれますので,手元に届いたら速やかに署名・押印をして提出しましょう。

 保険会社に対して診断書などを送られることが嫌な場合は提出しなくても構いませんが,その場合,自分で治療費を立て替えなければならず,相手の保険会社から支払いを受けることも困難となるでしょう。

(※)自分の過失が大きい事故の場合には,自分が加入している人身傷害保険や自賠責保険を利用することを検討します。

治療期間中

 治療期間中は,保険会社が支払いをしてくれていれば,被害者は治療に専念することができるようになります。

 治療の際に気を付けなければならないのは,症状について,軽いものであっても残らず伝えておくということです。

 よくあるのが,事故直後は,一番重い症状にばかり注意がいって,他の症状については医師に伝えておらず,当初軽いと思っていた症状が結果的に長引いて後遺症となってしまうというような場合です。

 このようなケースだと,診断書やカルテに,ある日突然新しい症状が加わるということになりますが,そういった部分に対して補償を受けるということはかなり難しいです。

 なぜなら、一般的には、事故による外傷の場合、事故直後が症状としては最も重く、徐々に受賞した部分が修復し、症状が改善するという経過をとることになるため、時間をおいてから症状が出現したり重くなったりすることは想定されていないためです(※むち打ち症の場合、事故の翌日~数日後に症状が出ることは珍しくありません。また、他にも遅発的に症状が出る傷害もないわけではありません。)。

 そのため、損害賠償の場面では,「症状が一貫している」ということが非常に重視されています。

 したがって,事故から時間が経った段階で新たに加わった症状については,「事故と因果関係がない」ということで賠償の対象外とされる可能性が高いわけです。

 そうならないために,事故直後から治療終了まで,一番気になる症状だけでなく,すべての症状について一貫して医師に伝えるということを意識しておきましょう。

 そのほか、単純にレントゲンを撮っただけでは分かりにくいような損傷がある場合、損傷箇所を確認できるようなCT、MRI等の検査を受けなければならないこともあります。

 また,事故によって仕事を休んだ場合(有給休暇の使用を含む)には,この部分も賠償の対象となります。

 給与所得者の場合は,休業損害証明書という所定の用紙に,勤務先に必要事項の記載を依頼し,源泉徴収票と合わせて相手の保険会社に提出します。

 この休業損害の請求ですが、治療が終わってからまとめて請求するのではなく、毎月請求することをおすすめします。

 毎月請求することをおすすめする理由は、休業損害の支払いは、休んだら休んだだけ出るわけではなく、社会通念に照らして相当といえる範囲でしか支払われず、当然支払われるものと安心して休業を続けていた結果、あとで保険会社に請求したら一部しか認められないといった事態が生じる可能性があるためです。

 毎月請求していれば、保険会社がストップをかけることもでき、被害者側はそれを見て休業を続けるのか、仕事に復帰するかを決めることができます。必要に応じて医師の見解を聞くこともできます。

治療の終了

 治療の終了のパターンは2つあります。

 1つは,怪我が完全に治って元通りの生活ができるようになる場合です。

 もう1つは,痛みなどの症状が残っているものの,治療による症状の改善が見込めなくなったという場合です(症状の固定)。

 前者であれば特に問題はないのですが,被害者の納得が得られにくいのが後者です。

 特に,痛みが残っている場合,対症療法により一時的に症状が和らぐことがあり,その場合,治療を打ち切られることへの不信感はかなり強くなります。

 しかし,このような場合には,後遺障害の認定を受けることによって,別途賠償を受けることが可能となりますので,認定が受けられれば,治療の打ち切り自体は大きな問題とはならないでしょう。

 問題は,症状が残っているものの後遺障害の認定を受けられない場合です。

 神経症状については,一定の要件のもとで,その症状が医学的に説明のつくものであれば,後遺障害の認定を受けることが可能です。逆に言うと,医学的に説明することが困難な症状の場合,残念ながら賠償の対象とはなりません。

 そのような場合、症状固定までの治療経過に基づいて慰謝料をしっかりと支払ってもらうように努めます。

示談交渉

 治療が終了するか,後遺障害等級の認定を受けると,最終の示談交渉となります。

 相手の保険会社から金額の提案があると思われますので,それを見て,示談ができる場合には示談をして,納得いかない場合には交渉をすることになります。

 保険会社から示される金額は,保険会社にとって最大限有利な見解に沿って計算されたものであることが多いため,基本的に低いものと考えていて良いでしょう。

 適切に支払いを受けたいと思う場合,とりあえず弁護士に相談することをおすすめします。

 交渉をして示談が成立すれば,手続きは終わりとなります。

裁判手続

 交渉を行っても、どうしても歩み寄れないという場合があります。

 この理由は様々ですが、一方が極端な考え方をしている、法律的な責任の範囲が不明確で交渉では妥協点を見出すのが難しい、事実関係の認識に食い違いがある、といったケースが考えられます。

 このように交渉が決裂した場合,裁判等を試みることになります。

 交通事故の場合、裁判まで至るケースはそれほど多くありません。

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