高齢者の死亡事故で慰謝料を約2400万円として示談した事案
事案の概要
本件は、被害者(事故当時80代)が道路を横断していたところ、前方不注視の自動車にはねられ、約5か月間の入院の後、亡くなられてしまったという事案です。
弁護士の活動
死亡事故の場合、一般的に交渉が必要となる事項は、逸失利益(就労、年金、退職金等)、慰謝料、過失割合といったものになります。
本件の場合、被害者は一人暮らしで就労はなく、逸失利益は年金のみでしたので、特に交渉が必要となったのは慰謝料と過失割合の部分でした。
慰謝料
死亡事故の慰謝料の額は、一般的に家族構成や年齢に左右されるとされていて、家族を扶養する一家の大黒柱が亡くなった場合、慰謝料の額も高くなり、また、高齢者と比較すると若年者の方が慰謝料の額が高くなるとされています。
一般的に慰謝料の基準額として用いられている、日弁連交通事故相談センター東京支部が作成している「損害賠償額算定基準」(赤い本)によると、一家の支柱が2800万円、母親、配偶者が2500万円、その他が2000万円~2500万円とされています。
本件の被害者の場合、子供は独立し、一人暮らしをしていましたので、「その他」にあたります。
そして、この「その他」の基準に幅があるのは、若年者と高齢者とで差が生じるためであるとされています。
その結果、一人暮らしの高齢者の場合、この基準に従えば、その他の下限の2000万円に近い額となります(入院経過を考慮した増額もあり得ます)。
本件では、事案を総合的に見て、入院時のものも含めて慰謝料の額を約2400万円とすることで保険会社との間で合意することができました。
過失割合
過失割合は、当初保険会社から15%と主張されていましたが、刑事裁判の記録を精査したところ、加害者の脇見運転が疑われたため、過失0%で交渉を行いました。
この点は、最終的に保険会社が過失0%を認めることはありませんでしたが、過失10%で示談とすることになりました。
ポイント
本件は、争点もそれほど多くなく、過失割合で若干譲歩していること、自賠責保険金の枠を使い切っていないことから、裁判での解決もあり得るところでした(裁判には遅延損害金や弁護士費用の加算といったメリットがあります)。
しかし、上では記載していませんが、本件では、過去の判例に照らせば請求が認められる可能性が低いものについて保険会社が支払いを認めていたという特殊事情があり、そのことを差し引くと訴訟提起のメリットが大きいとは考えられなかったため、ご遺族と相談の上で示談による解決としました。
金額面で考えると、死亡事故であれば全て裁判をした方がよいようにも思われるのですが、実際に交渉をおこなってみると、裁判では認められないような慰謝料の増額や費目の計上が認められることもあります。
この辺りの裁判を行うべきかどうかの見極めは、弁護士としての知識と経験が必要となりますので、死亡事故の場合、示談の前に迷わず弁護士にご相談していただくことをおすすめします。