後遺症による逸失利益
後遺症による逸失利益
治療を続けた結果,改善の見込みがなくなり後遺症が残ってしまった場合,その後遺症によって仕事がそれまでと同様に行うことができなくなり,収入が下がるもしくは上がらなくなるということがありますが,この将来の減収分についても加害者に対して請求することが可能です。
計算方法
賠償金の計算方法は,基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息となります。
①基礎収入
基礎収入は,事故の前年の年収を用いることが多いですが,学生や若年の労働者など将来の基礎収入の算出が難しい人の場合には,平均賃金を用いることもあります。
②労働能力喪失率
労働能力喪失率とは,後遺症による労働能力の低下の程度ですが,これは基本的に自賠責の後遺障害別等級表の数字を用いることが多いです。
③労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは,後遺症が原因となって実際に仕事(収入)にマイナスが生じるであろう期間のことを指しますが,症状固定時から一般的な就労可能年限(67歳とされることが多いです。)までで計算されるのが一般的です。
ただしこれは,あくまでも,後遺症による仕事(収入)への影響が,就労を終えるまで残るということを前提としています。
そのため,実際には収入が下がらないのではないか,等級表に記載されているような労働への影響はないのではないか,後遺症による影響がそこまで続かないのではないかといったことで争いになりやすいところでもあります。
④中間利息の控除
中間利息が差し引かれることになるのは,損害賠償においては,実際に生じた損害以上のものについて支払いを受けることは認められていないところ,後遺症による逸失利益が,将来の損害を一時金で請求することになる関係上,利息相当分を差し引かなければ不当に利益を得ることになってしまうからです。
この控除は,実務上,民事法定利率(平成30年11月現在は5%。民法改正に伴い,変更となる可能性があります。)を用いて複利で計算することが定着しています。
具体的な計算方法ですが,毎年分を全て計算して足していくということはせず,ライプニッツ係数(以下参照)という数字をかけることによって計算します。
例)
※利率が小さくなれば,ライプニッツ係数は大きくなり,支払われる金額も大きくなります。
ライプニッツ係数とは,この5年分の数字を合計したもののことです。
そのため,5年のライプニッツ係数は,4.32947667となるわけです。
したがって,労働能力喪失期間が5年で労働能力喪失率が5%であれば,計算式は,
基礎収入×5%×4.32947667
となります。
ポイント
逸失利益のポイントは,将来生じるであろう損害を現時点で予測して請求するものであるということにあります。
あくまでも予測に基づくものなので,厳密に正確な数字を出すことは困難です。
そのため,被害者としては,なるべく高めの予測をして計算しますし,加害者はなるべく低めの予測をすることになります。その結果,争いになる可能性が非常に大きい部分です。
このことは,交渉によって金額が大きく変わる可能性が高いと言い換えることもできます。
被害者側としては,単に自分の言い分を主張するだけではなく,どういったことが根拠となっているのかを明確にしなければなりません。
そのために,実務上,一般的にどのように計算されているのか,自分の場合,その原則をそのまま当てはめることができるのか,修正が必要だとすると,どの程度修正が行われるのか,といったことをよく調査しておく必要があります。
よく問題となる点
実際には減収がなかった場合→「減収がなくても逸失利益の請求はできる」