被害者請求は本当に被害者にとって有利なのか
自賠責保険の後遺障害の認定を受けるための方法は、「事前認定」と「被害者請求」という2つがあります。
このことは、インターネット上にも多数の記事が掲載されているのですが、誤解を招きかねないものも多々あるように思いますので、これらの違いについてここで解説します。
事前認定
「事前認定」とは、相手の任意保険の保険会社が、後遺症部分についても賠償を支払っても良いか、事前に認定機関に調査を依頼することをいいます。
任意保険は、自賠責保険の上乗せ保険ですので、自賠責保険で認められないものは支払いませんが、上記の調査の結果、後遺障害を認定できるという結果になれば、自賠責保険で支払いが出ることが分かりますので、任意保険会社としても、上乗せ部分を含めて支払いができるようになります。
その結果、被害者に対しても、後遺障害分も含めた形で賠償金の提示が行われることになります。
被害者請求
これに対して、「被害者請求」とは、自賠法16条1項により被害者に認められている請求で、被害者が自賠責保険の保険会社に対して直接賠償金の請求を行うものです。
賠償責任保険の性質からすると、一旦加害者が被害者に賠償金を支払った後で、加害者に対してその分の保険金が支払われることになるはずですが、被害者の便宜のため、このような請求が認められています。
「被害者請求」は上記のように自賠法16条により認められたものですので、「16条請求」とも呼ばれます。
「被害者請求」は、自賠責保険会社に対して直接賠償金の支払いを求めるものですので、後遺障害の認定がされれば、直ちに自賠責保険金が支払われることになります。
認定機関
上記のとおり、手続の違いはありますが、「損害保険料率算出機構」というところが認定のための調査を行うことに変わりはありません。
「損害保険料率算出機構」は、法律に基づいて設立された団体で、中立な立場から損害調査等を行っています。
「事前認定」の場合は、相手の任意保険会社から、「被害者請求」の場合は、相手の自賠責保険会社から、それぞれ調査の依頼が行われることになります。
重要なことは、審査をするのはどちらも同じ組織であるということです。
被害者請求が有利?
インターネットで交通事故を取り扱う弁護士や行政書士のホームページを見ると、何が何でも被害者請求をしなければならないような印象を与えるものが目立つように思いますが、これは本当でしょうか?
後遺障害が認定されるかどうかは、①誰がやっても認定されるもの、②誰がやっても認定されないもの、③やり方によっては認定されるものに分類することができます。
このうち、①と②については、誰がやっても結果は変わらないのですから、事前認定であろうと被害者請求であろうと違いはありません。
被害者請求をすることで結果が変わり得るのは③だけということになります。
そのため、「あなた」が被害者請求をすべきかどうかは、自分のケースが③に当たるかどうかが問題となります。
では、③に該当するケースはどれほどあるのでしょうか?
実は、これが問題で、答えは「分からない」と言わざるを得ません。
なぜなら、最初から被害者請求を行って等級の認定が出た場合、それが事前認定をしたら認定されなかったかどうかを確認する術がないからです。
逆に、最初に事前認定を行って認定されなかったものが、異議申立てで認定されたような場合は、上記の③に当てはまると考えられますが、けーすとししては多くありません。
他に③のケースに該当すると考えられるのは、作成された後遺障害診断書を確認したところ、後遺症の記載が漏れていたり、後遺症の内容からすると当然行わなければならない検査が漏れていたような場合に、追加の対応を依頼するような場合です。
しかし、後遺障害診断書の提出前に、後遺障害診断書の訂正や追加の検査が実施されていれば、あとは事前認定であっても、既にこの問題は解消されていますので、やはり結果に違いが生じるとは考えにくいです。このケースは、「被害者請求」か「事前認定」かという問題というより、厳密には、後遺障害診断書の提出前に内容のチェックを行ったかどうかという問題といえます。
このように考えたときに、③のケースがどれだけあるかというと、決して多くないのではないかというのが、私のこれまでの経験からの実感です。
少なくとも、「絶対に被害者請求にしなければ損をする」と断言できるようなことはありません。
ただし、事前認定であれば認定されたものが被害者請求をしたから認定されなかったというケースはおそらくないので、全体で見れば、被害者請求にした方が認定の確率が多少高いということは言えるかもしれません(個々の被害者に対してはミスリードになると思いますが)。
どうしたらよいか
以上のように、被害者請求の方が事前認定よりも後遺障害の認定がされやすいという証拠はありません。
しかし、私自身、異議申立事案など、明らかに③に該当するケースを見てきましたので、場合によっては、敢えて被害者請求を選択しなければならないこともあるでしょう。
また、被害者請求自体は、特別な費用が発生するようなものでもありませんので(多少の郵便代などはかかりますが)、手間が少しかかる以外に特にデメリットはありません。
さらに、被害者請求のたしかなメリットとして、自賠責基準の賠償金を先に受け取ることができるというものがあります。
後遺症の影響で仕事ができなくなったといった事情で、交渉や裁判に時間や費用をかけられないという被害者にとって、これは大きなメリットになります。
なぜなら、時間をかけられないということは、その分最終的に受け取ることのできる賠償金の額も小さくなる可能性があるためです。
このような事情からすれば、基本的に全件被害者請求を行うということで良いと思います。
しかし、それは、必ずしも被害者請求の方が事前認定よりも認定の確率が上がるという趣旨ではないのです。