死亡事故による逸失利益
交通事故で被害者が亡くなられた場合,損害賠償の対象となるもの中で大きいものとして,死亡逸失利益というものがあります。
死亡逸失利益とは,被害者が死亡していなかったら得られていたはずの収入を計算したもののことです。
死亡事故の場合、稼働による収入は完全にゼロとなりますので、残された家族への影響は非常に大きなものとなります。
そこで、この分を加害者に請求することになります。
実際に金額の計算を行う際、その被害者が将来どの程度仕事で収入を得られていたかを正確に予測することは不可能です。
そのため、計算方法にやや大ざっぱで曖昧ところがあるのは否めません。
また、そのような性質を持つものですので、やや分かりにくい部分にもなってきます。
このページでは、死亡逸失利益の概要について説明します。
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は,実際の実務では以下の計算式で求めます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
計算式自体は簡単なのですが,いずれも難しいところがありますので説明します。
①基礎収入
死亡逸失利益は,死亡していなければ得られていたはずの収入のことですので,被害者ごとに,将来得られるはずであった収入の額は異なります。計算では、事故前年の収入額を用いることが多いです。
学生・若年労働者
まだ仕事を始めていない学生や,今後大幅は増収が見込める若年の労働者の場合,一般的な労働者の平均賃金を用いることもあります。
また、この平均賃金の額を用いる場合、通常は男女別のものを用いることになり、男性の平均賃金と女性の平均賃金では、大きな開きがあるのが現実です。
そうすると、特に子供の場合、性別によって賠償金の額が大きく異なることになり、不公平が生じてしまいます。
そこで、最近では、年少女子が被害者となった場合、男女含めた全労働者の平均賃金を用いるようになってきています。
主婦(専業・兼業)
主婦の場合、実際には収入を得ているわけではありませんが、家事という一種の労働を行っていますし、家事をする人がいなくなった場合、他の家族に影響が出ます。
そこで、主婦についても死亡逸失利益が認められています。
計算をする際は、上の計算式の基礎収入の部分について、女性労働者の平均賃金を用いるのが一般的です。
兼業主婦の場合、勤め先での収入と女性労働者の平均賃金を比較して高い方を使って計算します。両方を合算することは認められていません。
高齢の主婦の場合、若い人と比べて、できる家事の範囲が制限されることも多いと考えられますので(子育ても終えて家事の負担が減っているということもあるでしょう)、年齢別の平均賃金を用いることがあります(金額としては若干低くなります)。
②生活費の控除
生活費の控除とは,文字通り,収入の中から,死亡していなければ発生していたはずの被害者本人の生活費を差し引くというものです。
なぜこのような処理が必要となるかというと,損害賠償は,あくまでも被害を回復することを目的とするもので,被害者に利得を得させるものではないため,「本来発生したはずの生活費の支出を免れたのであれば,その分賠償金額から差し引くべきである」とか,「生活費は収入を得るための一種の必要経費であるため,差し引くべきである」といったことが理由として考えられます。
実務上、生活費控除は逸失利益に対してのみされているので、収入のための必要経費を差し引くという考え方の方が理解しやすいと思います。
計算方法としては,実際に支出していた生活費を元に計算していく方法や,統計上の数値を用いることも考えられますが,実務上は,被害者の家庭内での立場,性別といった事情を元に,割合で差し引くことが一般的です。
例えば、実務でよく用いられる赤い本と呼ばれる本では,以下のような基準が示されています(日弁連交通事故相談センター東京支部編 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2018年版 159ページ)。
被扶養者1人の場合 40%
被扶養者2人以上の場合 30%
女性(主婦,独身,幼児等を含む) 30%
男性(独身,幼児等を含む) 50%
③労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、後遺障害逸失利益と同様に、就労可能年限までで計算します。一般的には67歳までとされることが多いです。
比較的高齢の被害者で、例えば、66歳の被害者が事故に遭ったとすると、この期間がわずか1年となってしまいますが、事故の時点で仕事をしていたことからすれば、1年で働けなくなっていたとは考えるべきではありません。そこで、このような場合、平均余命の2分の1を労働能力喪失期間として計算します。
※具体的な事案に即して修正されることがあります。
④中間利息の控除
ライプニッツ係数とは,中間利息を控除するための処理をされた数字です。
中間利息は、民事法定利率によって運用した場合の運用益のことをいうものと考えると分かりやすいです。
我が国の損害賠償制度の目的は、あくまでも実損害を補填する原状回復にありますので、被害者に運用益分のプラスが生じないようになっています。
民事法定利率は法改正により変動の可能性がありますが、この中間利息の控除の処理は、複利を前提に行われます。
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