サラリーマンの休業補償

 弁護士として実際に様々な交通事故のご相談をお受けしていると,サラリーマンの場合でも,必要な補償が100%受けられているは限らないことが少なからず見受けられますので,サラリーマン(給与所得者)の休業損害(休業補償)の請求について解説いたします。

 

基本的な計算の方法

 前提として,サラリーマンの休業損害(休業補償)の計算の仕方について確認しておきましょう。

休業日数の把握

 まず,実際にどれくらい休んだのかを確認するために,「休業損害証明書」を作成します。

 休業損害証明書は,自賠責の定型書式を用いて,会社に作成を依頼することが通例です。

 これにより休業日数を把握することができます。

基礎収入額の設定

 次に,休業1日当たりにどのくらいの損害が発生するのかを確認します。

 この計算方法としては,交通事故の直前3か月の給料(額面)の平均値を用いるのが一般的です。

 実際には,事故前3か月分の給料の合計額÷90日とすることが多いです(91日や92日で割ったとしても間違いではありません。)。

休業損害の計算

 以上の結果,休業損害の計算式は以下のようになります。

 基礎収入額×休業日数=休業損害

具体例

 イメージをしやすくするために,以下のような事例で見てみましょう。

①事故日

 11月1日

②休業日数

 11月1日から11月15日までの15日

③収入

 2月 30万円

 3月 30万円

 4月 30万円

 (※20日勤務で月給30万円,日給1万5000円)

④会社から支払われた11月分の給料

 11月16日~30日までの半月分として15万円

 

基礎収入

 (30万円+30万円+30万円)÷90日=1万円/日

休業損害額

 1万円×15日=15万円

コメント

 これが基本的なサラリーマンの休業損害の考え方であり,具体例では,約半月休業して,15万円が休業損害として支払われているので,会社から支払われた給料と合わせれば30万円となり,感覚的にも支払いに不足しているということはないはずです。

 

保険会社との交渉でよく問題となる点

 上記のように,連続して休業しているような場合には,保険会社の支払いも不足がないことが多いでしょう。

 しかし,よく問題となるのは,休業が飛び飛びになっている場合です。

具体例

 先ほどの例で,通院などのために,11月1日,5日~10日,15日の合計8日といったように飛び飛びで休業した場合で見てみましょう。

 先ほどの計算方法では,1万円×8日で8万円が休業損害となりそうです。

 ここで注意すべきなのは会社から実際に支払われる給料との合計額なのですが,先ほどの「収入」のところで見たように,日給では1万5000円となっていて,20日勤務だとすると,会社に出社することができたのは20日-8日の12日になります。

 その結果,会社からの支払額は,1万5000円×12日=18万円となります。

 そうすると,先ほどの休業損害額8万円をプラスすると,合計26万円ということになるのですが,事故の前は毎月30万円の給料を受け取っていたことからすると4万円も下がっています。

 この点が問題なのですが,保険会社は,実際にほとんどの場合でこのような計算をしてきます。

なぜこのような事になるのか?

 それでは,なぜ初めの例では問題がなかったものが2番目の例では問題になるのかということなのですが,理由は簡単で,休日が適切に考慮されていないからです。

 つまり,初めの例では,11月1日から11月15日の間に休日が含まれている中で,休業の日数について,休日も含めて連続した15日間という期間で計算をしていました。

 これに対して,2番目の例では,飛び飛びで休んでいたために,連続した期間としての計算をすることができず,休日を含まない実際に休んだ日を使って計算しています。

 問題の原因は,基礎収入の額を計算するときには休日を含む90日で割っていたということです。休日を含んでいる分,1日の単価は低くなっています。

 そのため,2番目の例のように,この単価に休日を含まない実際に休んだ日をかけると支払額が小さくなるのです。

 今回は,月の稼働日数が20日の例で考えてみましたが,月に3日しか働かず,1日の仕事の単価が10万円という場合を考えると,1日当たりの休業損害が1万円というのが不当であることがよりハッキリとします。

交渉の方法

 計算上の問題点は上記のとおり明らかですが,保険会社は,こうした違いを無視して機械的に前述の方法で基礎収入を計算してきます。

 これに対する対応の方法としては,基礎収入について,休日を含まない稼働日数を元に日給を算出するということが考えられます。

 実際に,裁判上もこのような計算方法が認められていますので(東京地裁平成26年1月21日判決等多数),弁護士としてもこの計算によって請求を行うのですが,保険会社の担当者によってはすぐに応じないことがあります。

 そのような場合には,過去の裁判例や理屈について根気強く説明することが必要となります。

 

どこまでが基礎収入になる?

 基本給のほかに,各種手当も含みますが,実費に対応して支払われる通勤手当については,通勤をして実際に交通費を払わなければ発生しないものなので,基礎収入には算入しないことになります。

 

有休休暇を利用した場合は請求の必要がない?

有休休暇を利用した場合でも請求は可能

 休業損害を含めて,基本的に損害賠償は,実際に損害が生じて初めて加害者に請求することができるようになります。

 そのため,有休休暇を利用して会社から支払いを受けた場合には,加害者に対して休業損害の請求をすることができないのではないかということが問題となります。

 この点については,現在の実務上は,有休休暇を利用した場合でも,有休休暇を利用する権利を自身が望まないタイミングで使用することになっていることから,損害があるとして賠償の請求をすることができることとなっています。

 この場合の損害の額については難しいところがありますが,一般的には,通常の休業損害と同様に,基礎収入額に応じて使用した日数分の請求が認めれることが多いです。

請求の方法

 有休休暇を利用した場合は,保険会社が応じないというよりも,被害者本人が損害があることに気付いていないということが多いので,請求を忘れないようにしましょう。

 

ボーナスは?

ボーナスの減額分も請求は可能 

 事故によって休業したことが賞与の計算上マイナスに評価され,結果として賞与の額が減った場合には,この減額分を事故の加害者に請求することができます。

 内容に問題がなければ,特に争いなく保険会社から支払われることも多いです。

 もっとも,減額又は減額の可能性があるのに,そのことを適切に相手方に伝えなかった場合には,損害賠償上考慮されないことになりますので,この点も忘れずにチェックしましょう。

請求の方法

 ボーナスについては,「賞与減額証明書」というものを別途会社に作成してもらうとともに,賞与の計算規程についても併せて交付をお願いすることになります。

 

残業ができなくなった場合は?

事故によってマイナスになった分の請求が可能

 仕事には復帰したものの,事故前のように残業ができなくなったという方もいらっしゃいますが,このようなものも,事故によって発生した損害として請求は可能です。

 この場合の問題点は,既にみたように,休業損害の計算が基本的に基礎収入に休業の日数をかけるという方法で行われるため,休業をしていない以上,通常の請求方法では残業代分のマイナスが計上されないという点にあります。

 休業損害証明書によってしか請求ができないものと考えていると,この点を見落としがちになるので,注意が必要です。

請求の方法

 請求の方法としては,復帰後の給与の額と事故前の給与の額の差額を残業代分の損害として請求することなどが考えられます(大阪地裁平成28年3月24日等参照)。

 当事務所でも,同様の方法によって相手方保険会社に対して請求を行い,支払を得られたことがあります。 

 

まとめ

 以上のように,サラリーマンの休業損害の請求は,認定はそれほど難しいところはないものの,被害者の側できちんと把握して主張しておかなければ見落とされてしまうものが多いのが特徴です。

 一つ一つの損害を漏らさずに適切に請求を行うためには,細かいチェックとそれなりの理論構成が必要となるところもありますので,しっかりと補償を受けられたい場合には,まずは専門家である弁護士への無料相談をご利用ください。

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