骨折の後遺障害の種類

 交通事故で多くみられる怪我として,「骨折」があります。

 一口に骨折といっても,骨折の部位や程度によって、生活への影響や予後も大きく異なります。

 当然、交通事故の最終の示談交渉の場面でも微妙な違いが出てくることになります。

 骨折それ自体に伴う後遺症は、大きく分けると①機能障害、②変形障害、③神経障害の3つが主に考えられます。

 そこで、これらについて違いについてご説明します。

各後遺症の内容

機能障害

 機能障害とは,事故の前と比較して,関節等の可動域が制限されることをいいます。

 例えば,骨癒合不全によって腕が肩より上に挙がらなくなったといったものが典型例です。

 その他に,補装具を必要とするような場合にも機能障害になりえます。

神経障害

 神経障害は,骨折した箇所に痛みなどが残った場合の障害のことです。

 脊椎骨折に伴って脊髄損傷が生じた場合には,身体の麻痺などより重篤な神経症状が残ることもあります。

変形障害

 変形障害とは,文字通り骨が変形した状態で,骨の癒合が上手くいかなかったような場合に生じてきます。

 骨の変形によって可動域制限や痛みが出ることはありますが、変形障害自体は見た目に関する障害といってよいでしょう。

賠償上の違い

 後遺症による賠償は,大きく分けると後遺障害逸失利益と慰謝料があります。

 このうち,慰謝料については実務上定額化が進んでいて後遺障害等級に応じて一定額が支払われることが通例です。

 そのため,後遺障害等級が認定されるような症状が残っている以上,それほど大きな問題にはなりません。

 問題となるのは逸失利益です。

 逸失利益は,通常,次の式により計算されます。

 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

 一般的には「労働能力喪失率」は,労働能力喪失率表に基づいて決まることが多く,「労働能力喪失期間」は,一般的な就労可能年限とされる67歳までで計算されます。

 この「労働能力喪失期間」と「労働能力喪失率」について,後遺症の種類によって考え方に違いがありますのでご紹介します。

 なお,厳密には,被害者ごとの細かな事情により,同じ後遺症の種類でも違いは出てくることになりますので,以下で示すものは,あくまでも一般的な傾向に関するものです。

機能障害

 機能障害は,それによって労働あるいは日常生活に一定の支障が生じることが比較的容易に想像することができるので,労働能力喪失率に関して争いになることはそれほど多くありません。

 また,その症状も,時間の経過によって改善することは想定されていないため,一般的な労働能力喪失期間を用いることが通例です。

※詳しくはこちら→「肩・肘・手の関節機能障害の後遺障害

変形障害

 変形障害も,後遺障害等級表に示されていている後遺症の1つであるため,基本的には,後遺障害等級表に記載されている労働能力喪失率が認められると考えられます。

 しかし,特に,脊柱変形について11級7号が認定されたような場合や鎖骨変形によって12級5号が認定されたような場合,実務上,逸失利益の喪失率について争いが生じる場合があります。

脊柱の変形障害については,医師の見解の中に,労働能力の喪失がないというような見解を示すものがあったりしたためですが,裁判実務上も,労働能力喪失率について労働能力喪失率表どおりの認定をすることもあれば,より低い認定をすることもあります。

 鎖骨変形についても,基本的には変形自体で労働能力に影響はないのではないかと思われますので(例外的なケースとして職業がモデルのような場合が考えられます。),労働能力喪失率を低く見積もられることがあり得ます。

詳しくはこちら→「圧迫骨折と11級7号」「鎖骨骨折と12級5号」

 様々な事情を考慮した結果、変形障害による逸失利益は認められないとなった場合でも、変形が残ってしまうことで精神的な苦痛が生じることは相続に難くありません。したがって、このような場合には逸失利益としては賠償を認めない代わりに慰謝料を通常のケースよりも高く認定するといった調整がされることがあります。

神経障害

 骨折箇所の痛みなどについて後遺障害の認定を受けた場合,損害賠償上,後遺障害逸失利益の労働能力喪失期間について争いが生じることが非常に多いです。

 この労働能力喪失期間の問題は,特にむち打ち症の治療後に後遺症が残ったときに争いになってきたのですが,むち打ち症の場合,時間の経過によって痛みに馴れることや痛みが軽減していくことがあることを理由として労働能力喪失期間を14級9号で5年,12級13号で10年などとされています(一般的なその他の後遺障害の場合,通常は,就労可能年限と一般的にされている67歳まで)。

 このような傾向もあって,骨折箇所の痛みに関する後遺症についても,労働能力喪失期間を制限されることが裁判上も散見され,明確なルールはありません。

 結局、実際の減収の有無、症状の原因となった怪我の内容や仕事の内容,実際に生じている仕事の支障の程度等を元に判断するほかありませんが,いずれにしても,骨折箇所の神経症状に関する後遺症の場合,逸失利益の金額が制限されることがあるということが重要なポイントです。

※脊髄損傷について

 脊髄損傷によって身体に麻痺などが残った場合,神経の異常を反射テストなどによって確認し,後遺症の認定を受けることになります。

 それらの証明ができれば,痛みなどの症状に関する場合と異なり,逸失利益の計算について労働能力喪失期間が一般論として問題となるということはないでしょう。

 また,重篤な麻痺が残った場合には,将来の介護費用といった高額の費目について別途考慮することになります。

まとめ

 例えば,鎖骨骨折で12級の認定を受けたといっても,可能性として,①腕の可動域制限で12級6号,②鎖骨の変形障害について12級5号,③痛みについて12級13号が認定された可能性があります。

 そして,これらは,賠償上考慮すべき事情が異なり,金額に違いが出ることが考えられます。

 したがって,「12級なら見込みは〇〇円です。」などと軽々しくお答えすることはできません。

当然,保険会社は,可能な限り低い金額を示してくることが予想されますので,重要なのは,これらの特徴を押さえた上で,いかに的確に相手の主張に対して反論し,適切な賠償を受けていくかということです。

 加害者と適切に交渉していく場合には,後遺障害等級の数字だけではなく,後遺障害の中身を見ることが必要となるのです。

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