交通事故で慰謝料を請求できるケース

2016-12-01

 交通事故事件で,相手方との示談交渉で争いになる項目の典型例が慰謝料の額ですが,慰謝料は,苦痛を被ったら必ず認められるというものではありません。

 比較的争いになりやすいケースとして,以下のようなものがあります。

1 被害者がケガをしたり死亡した場合の被害者本人からの慰謝料請求

 まず,交通事故でケガをした場合の被害者本人からの慰謝料請求ですが,基本的に入通院慰謝料として認められることになります。ただし,この場合でも,交通事故の衝撃が極めて軽微であり,事故によってケガをしたかどうかが疑われるようなケースの場合には,慰謝料が必ず認められるとは限りませんので注意が必要です。

 同様に,被害者が亡くなった場合でも,被害者本人の慰謝料請求権が発生するとされています。この場合,亡くなった方は請求できませんので,相続人である遺族が請求することになります。

2 本人以外の人からの請求

(1) 被害者本人が死亡した場合

 被害者が死亡した場合に近親者からの慰謝料請求が認められることは民法711条に規定があり,「被害者の父母,配偶者,子」が,請求できるということになっています。

 さらに,ケースによっては,711条に列挙されている近親者以外の者からの請求が認められることもあります(最高裁昭和49年12月17日判決)。

(2) 被害者本人がケガをした場合

 例えば,お子様が交通事故でケガをしたことによって,親御さんがお子様のことを思って精神的な苦痛を被ることは珍しくないと思います。このような場合に親御さんから加害者に対して損害賠償請求は可能なのでしょうか?

 この点は,不可能とまでは言えませんが,基本的には,被害者本人が請求すれば足りることから,かなり難しいと言っていいでしょう。

 判例では,最高裁昭和33年8月5日判決が,10歳の娘が交通事故で顔面に著しい損傷を負ったケースで,「その子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」として,母親からの慰謝料請求を認めていますが,かなり例外的なケースであると考えられます。

 死亡事故以外で,近親者の慰謝料が認められることが多いケースとしては,介護を必要とするような重度の後遺障害が残った場合があります。

 このような場合は,近親者慰謝料分を上乗せして請求することを検討しても良いでしょう。

3 物損についての慰謝料

(1) 車の場合

 これも珍しくないケースですが,交通事故に遭った車が非常に思い入れのある車で,その車が事故に遭って傷つけられ,さらには全損扱いとなって修理費用すら出ないというときに,慰謝料の請求ができるのでしょうか?

 この点については,必ず認められないというわけではありませんが,実務上は,「通常は,被害者が財産的損害の填補を受けることによって,財産権侵害に伴う精神的損害も同時に填補されるものといえる」(東京地裁平成元年3月24日判決)などとして基本的に否定されることになります。

 車の損傷に対する補償は,修理費用や買い替え費用といった実費の支払いによって行われると考えておいた方が良いでしょう。

(2) 認められる場合

 それまで大事にしていたペットが死亡した場合や,事故で家屋を破壊されたような場合には,慰謝料の請求が認められることがあります。

4 まとめ

 精神的な苦痛があれば,慰謝料の請求は当然に認められても良さそうなものですが,以上のように実際には認めれられないということも少なくありません。

 逆に,認められる部分については,もれなく支払いを受けるようにしなければなりません。