後遺障害の逸失利益

 後遺障害の逸失利益とは,後遺症によって将来仕事の一部または全部ができなくなった場合に,下がってしまう収入を補償するものです。

 例えば,「それまで歩合で年間100万円の収入を得ていた人が,事故の後遺症で仕事を半分しかできなくなり,収入が50万円になってしまった」というようなケースで,この差額の50万円を,定年などで仕事ができなくなるまでの間分を請求するというのが基本的なイメージです。

 しかし,少し想像すれば分かりますが,実際に将来どの程度収入が下がるのかを正確に予測することはおよそ不可能で,上の例でも翌年も同じように収入が50万円になるとは限りません。

 また,後遺症とはいいつつも,症状が改善したり,仕事の性質上,後遺症によって収入が変わらないというようなこともあります。

 そのため,後遺障害の賠償金額の計算は,そもそも実態と完全に一致しているものではなく,ある種のフィクションであるということを認識しておかなければなりません。

 また,このように曖昧な点が多いため,「赤い本」と言われる本に書かれている基本的な計算方法によって得られた数値がそのまま受け取れる金額になるわけではないということも知っておかなければなりません。

 どのようなことが問題になるかをここでは見ていきます。

現在の実務の状況

計算方法

 実務では,後遺障害の内容ごとに等級と喪失率を示した「労働能力喪失率表」を用いて実際に減収が生じる期間を対象として,以下のように賠償金の計算を行うことが定着しています。

 基礎年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間-中間利息=逸失利益

労働能力喪失率とは

 労働能力喪失率とは,労働能力がどの程度低下しているかということを示す数値で,上記のように賠償金額を算出するために用いられています。

 寝たきりなど,全く仕事ができない状態になると,労働能力喪失率は100%となりますが,そこまでに至らない場合,67%,20%などと後遺症の程度によって数値が決まっていきます。

 労働能力喪失率は,「後遺障害等級表」に記載されている後遺障害に該当することを前提に,後遺障害等級に応じて「労働能力喪失率表」所定の数値を用いることが一般的です。

 「後遺障害等級表」とは,自賠法施行令に掲げられている別表1,2のことを指していて,1級~14級までの各後遺障害の内容が記載されています。

 また,「労働能力喪失率表」は,後遺障害の等級に応じて労災の基準により作成されています。

 この後遺障害等級表と労働能力喪失率表は,実態を必ずしも反映しているとはいえないのですが,かといって他に有効な手段があるわけでもないため,広く活用されるに至っています。

 ただし,実態とかけ離れていることが明らかなのに,それを無視することはあり得ませんので,この後遺障害等級を参考にしつつ,実際の状況に合わせて,「被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,減収の有無・程度,生活上の障害の程度等を総合的に判断して,労働能力喪失率を定める」というのが建前となっています。

 その結果,賠償金の計算の際に,労働能力喪失率表とは異なる数値が用いられることもあります。

労働能力喪失期間とは

 減収が生じる期間は,症状固定時から就労可能な最終の年までの年数を用いることが通例です。この期間を労働能力喪失期間といいます。

 しかし,後遺症によって減収が生じたとしても,それが就労可能年限まで続くとは限りません。

 そのため,労働能力喪失期間についても,労働能力喪失率と同様に修正が入ることがあります。

様々な修正

 上で述べたように,後遺障害の逸失利益の計算がフィクションである以上,実態に即して修正を受けることがあるのは当然のことです。

 具体的にいうと,「労働能力喪失率表によれば労働能力喪失率は〇〇%だが,実際には△△%だ」というように争われることになります。

 この争われ方は,プラスの方向でもマイナスの方向でもあり得ますが,典型的なものとしは以下のようなものがあります。

後遺障害の内容による修正

 後遺障害の内容に着目して労働能力喪失率がマイナスに修正されることが多いものとして,脊柱・鎖骨等の変形障害,醜状障害,嗅覚・味覚障害,歯牙障害などがあります。

 これらは,後遺障害等級表に記載はされていますが,その等級に見合っただけの労働能力の低下が認められるかが一般論として疑問のあるところですので,問題となることが少なくありません。

実際の被害者の事情による修正

 後遺障害が残り,一般論としてそのことが労働に影響を与えると思われることに異論がなくても,被害者の職業や仕事の内容,年齢などによる修正が行われることがあります。

 典型例は,後遺障害にもかかわらず収入が下がっていないというケースです。

 しかし,本来であれば昇給していたはずなのに休業が据え置かれたというような場合や,就業時間を延ばしてマイナスをカバーした場合など,実際に減収がなくても,本来得られていたはずの収入が得られていないということは十分にあり得ます。

 本来の賠償の考え方では,減収がなければ一切賠償は受けられないはずですが,現在の実務では,収入が下がっていないからといって直ちに賠償を否定するということはしていません。

 しかし,実際に減収が生じているケースと比較すると,損害の大きさという点では違いがあることは否定できないため,マイナスに修正をされることも少なくありません。

 特に,公務員のように手厚い身分保障がされているような場合には,注意が必要です。

まとめ

 後遺障害の逸失利益の額は,後遺障害の等級が認定されれば機械的に決まるというものではありません。

 ここで述べたこと以外でも,考慮しなければならないことは多くありますので,示談交渉や裁判で闘う場合には,自分の仕事の状況・後遺障害の内容に照らして,どの程度の支払いを受けられるのかをよく吟味する必要があります。

 ケースによっては,裁判所の認める金額よりも保険会社との示談交渉で認められた額の方が大きいということもありますので,「赤い本の計算とは違うからおかしい」と単純に考えるのではなく,見通しについて的確に判断した上で,裁判をすべきか示談をすべきかの方針を決めましょう。

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