後遺障害とは
交通事故で大きなけがをした場合,治療をしても症状が残ってしまうことがあります。
このような症状のことを一般的に後遺症と呼びます。
さらに,交通事故の賠償の話をするときに,「後遺障害」という用語を用いることがあります。
そこで,この「後遺障害」とは何かについてご説明します。
自賠責保険の用語
交通事故の示談交渉の中で使われる「後遺障害」とは,一般的には自賠責保険で用いられている用語のことを指します。
自賠責保険の後遺障害とは,「症状の固定した状態で,残った症状について,将来においても回復が困難と見込まれる精神的または身体的なき損状態で,その存在が医学的に認められ,労働能力の喪失を伴うもの」を指します。
つまり、後遺障害に対する賠償とは、「症状固定」後に治ることがなく残った各種症状に対する賠償のことを指しています。
そのため,後遺症が残ったといっても,症状が固定したとはいえないような場合や,将来的に回復が予想される場合,労働能力の喪失を伴わないといったものは,後遺障害には該当しないということなります。
したがって,骨折をした直後で可動域に大きな制限が生じていたとしても,時間の経過によって骨癒合が進み,症状が改善することが見込まれるような場合,その段階で後遺障害とみなすことはできません。
また,受傷後の痛みやしびれが一向にひかないという場合,後遺障害等級14級9号が認定される可能性がありますが,ちょっとした違和感があるという程度では,労働能力の低下は生じないと考えられますので,やはり後遺障害の対象とはなりません。
さらに,後遺障害等級が認定されるには,最低でも,受傷状況からその症状が後遺症として残るということについて、「医学的に説明がつく」ことが必要になります。訴えが事実であったとしても、それが医学的に説明がつかないものであれば、やはり後遺障害に認定することはできないということになります。
つまり,何らかの症状が残っていれば,日常用語でいう「後遺症」があるということにはなり得ますが,賠償の場面で使われる「後遺障害」は,加害者に金銭を負担させるという性質を持つものですので,金銭的な賠償のレベルでないものや,説明のつかないような症状については,認定の対象とはならないということです。
例えば、骨折後、きれいに骨が癒合しているのに可動域が大きく制限されているような場合や、特に外傷が見られないのに視力が大きく低下しているような場合は、後遺障害として認定される可能性は低いと考えられます。
賠償の場面で使われる「後遺障害」といえるには,一定のハードルを越えていなければならないということになりますので、一般的な用語の「後遺症」よりも狭い概念であるといえるでしょう。
※後遺障害の分類の詳細はこちら→「後遺障害の分類と等級表」
労災の認定基準
自賠責保険の後遺障害の考え方は、労災保険の考え方を準用していますので、自賠責保険と労災保険の「後遺障害」は、ほぼ同じものです。
なぜ「ほぼ」同じなのかというと、一部の後遺障害では、自賠責保険が独自の認定基準を設けていることに加え、そうでなくても、自賠責保険と労災保険で後遺障害等級の認定結果が違うということが見られるためです(その場合、労災の方が重い認定となっていることが多い)。
自賠責保険と労災保険で後遺障害等級に違いがあるのは、労災の場合は医師による面談があるといった手続的な違いの他に、自賠責保険は加害者の責任を前提とする関係で、慎重に判断しなければならないからだとか言われています。
賠償では「後遺障害」に該当することが必要
自賠責保険では,後遺症の重さによって1級から14級までの後遺障害等級が定められていて,各級の中で,どのような症状であれば認定されるかが「号」によって細かく決められています。
例えば,肩関節の片方の可動域がもう片方の可動域の2分の1以下となった場合は,後遺障害等級10級の中の9号が認定されることになります。
交通事故で相手から支払いを受けられる後遺症といえるには,このように自賠責保険の後遺障害等級の基準のうちのどれかに該当しなければなりません。
厳密にいうと,法律上(裁判上)は,自賠責保険の定めにかかわらず,後遺症の賠償を認めることができるので,自賠責保険の後遺障害に該当しなくても賠償を受けることは可能です。
しかし,現在の実務では,裁判所も自賠責保険の基準を満たしているかどうかという観点から判断が行われるのが一般的ですので,基本的に自賠責保険の基準を満たしていなければ支払いを受けられないと考えて良いです。
そのため,交通事故の賠償の際に「後遺症」というときは,自賠責保険で定められている「後遺障害」のことを指しているということになります。
被害者はどう考えるべきか
このように,賠償の場面でいう「後遺障害」は,単に「後遺症」が残っているという程度では足りないのですが,実際には,厳密にこれらの用語を区別して用いているわけではありません。
ただ,賠償の対象となるためには,後遺症について賠償を受けるためには,自賠責保険のいう「後遺障害」の基準を満たしていなければならず,特に示談交渉では自賠責保険の等級認定が必須となりますので,何らかの症状が残っていれば、それに対して補償が受けられるわけではないということを覚えておきましょう。
※認定手続きの流れはこちら→「後遺症の認定手続の流れ」
また,後遺障害等級の認定を受けるためには,「症状固定の状態となっていて」,「将来的に回復が困難であること」,「医学的に証明(又は説明)できるものであること」、「労働能力の低下を伴うものであること」が必要となりますので,後遺症があれば賠償を当然受けられるわけではないということに注意が必要です。
特に,「医学的に証明できるものであるかどうか」は,認定を大きく左右するものですので,医学的に証明できたといえるだけの検査を適切に受けているかなど,自分でもチェックしておくと良いでしょう。
例えば、関節の可動域制限が生じていたとしても、骨癒合の不全や関節面の不整合といった異常の原因がレントゲンやCT等で確認できなければ、後遺症に見合った等級を受けることができません。
後遺症について後遺障害等級の認定が受けた後は,加害者側と最終の示談交渉を行い,適切な支払いを受けましょう。
※示談交渉の概要はこちら→「後遺症の賠償交渉」