人身傷害保険で過失の穴埋め

 交通事故にあったときに頭を悩まされるのが,自分に過失があるとされたときに,その分の損害の補てんが自己負担となることです。

 しかし,この過失分の補てんがご自身の保険で行えることはご存知でしたか?

 その保険は,人身傷害保険と呼ばれるもので,最近では付帯率が平成28年時点で約9割とも言われ,ほとんどの方が加入されているほか,一般的に使っても保険料は上がりません。

 そのため,過失があるようなケースでも,この保険を積極的に活用していくことを検討すべきです。

 以下では,これまでの実績を元にした弊所の見解と,実際にどのように使っていくのかについて解説します。

※各社によって約款の内容は多少異なりますので,詳しくはご加入の保険会社の約款をご確認ください。

人身傷害保険の特徴

① 過失にかかわりなく保険金が支払われる

 人身傷害保険は,被保険者の過失にかかわらず,保険金を支払います。

② 算定方法

 人身傷害保険金は,契約にしたがって支払われるものなので,その金額は契約内容(約款)によって明確に定められています。

 したがって,加害者側に請求する場合に交渉で増額したりするのとは異なり,約款にしたがって支払われている以上,金額を争うことはできません。

③ 求償(代位)

 人身傷害保険は,本来加害者が負担すべきものも含めて支払いを行いますので,その部分については,加害者から回収を行います。

 人身傷害保険会社が求償を行う限度で,被害者の加害者への請求権の額は減少します(同じ損害について2重取りはできない。)。

④ 求償の範囲

 人身傷害保険会社は,支払った人身傷害保険金の額が損害を填補するのに不足している場合は,人身傷害保険金の額と被保険者の加害者に対する損害賠償請求権の額(過失相殺後の額)を加算したものから,損害額を差し引いた範囲でのみ求償できます(保険法 25条1項2号)。

 各社の約款も,この法律の規定を元に作成されています。

 この点は分かりにくいのですが,端的に言うと,人身傷害保険会社は,損害額のうち,被保険者の過失分相当額については,相手に求償することはできず,自己負担としなければならないということになります。

 

具体例

損害額100万円,過失相殺20%,人身傷害保険金60万円の場合

加害者に対する請求権から過失相殺される額 100万円×20%=20万円

加害者への請求権の額 80万円

この場合,この20万円については,保険会社は求償できませんので,求償可能額は40万円となります。

 ↓帰結

ⅰ 被害者の請求権の額は,80万円―40万円=40万円となりますが,既に受け取った人身傷害保険金60万円と合わせて損害額 満額を回収できたことになります(過失が大きい場合は,満額回収とならないこともあります。)。

ⅱ 加害者が負担する額は,被害者からの40万円と保険会社からの40万円で,保険を使わなかった場合と変わりません。

ⅲ 人身傷害保険会社は,被害者の過失分に応じて負担額(このケースだと20万円)が生じることになります。

 

実際に満額回収が可能か?

 上記の帰結は,あくまでも,「損害額」がいくらかという点を,全当事者で共有できていることを前提としています。

 しかし,人身傷害保険会社に言わせれば,自社の基準(人傷基準)によって算出された金額が一応は損害額そのものとなるので,結局,この点を裁判基準にしたいのであれば,人身傷害保険会社に対して「損害額」がいくらかを示す必要があります。

 この点について,保険会社は約款を設けていて,判決または裁判上の和解によって損害額が認められ,その額が社会通念上妥当であると認められる場合は,その金額を「損害額」とみなすなどとしています。

 理論上は,裁判を経なくても裁判基準での「損害額」を認めてくれればいいと思いますが,上記約款の反対解釈の問題もあり,ほとんどのケースで,保険会社は交渉による「損害額」の変更に応じません。

 その結果,自分の過失分を人身傷害保険会社に負担させるためには,裁判手続きを行うことが必要となってきます(これまでの経験を踏まえた弊所の見解)。

 特に,人身傷害保険金を先行回収した場合の裁判の仕方はかなりテクニカルなものになるので,人身傷害保険を使って過失分の埋め合わせをするという方法は,弁護士を使った裏技のようなものといえると思います。

→実際の解決事例はこちら

 

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