事故状況に争いがあるケース

2022-05-27

 交通事故の損害賠償の請求を行う場合に、最も問題となるものの1つに「事故状況についての争い」があります。

 この点が争いになると、交渉で解決する可能性が低くなり、裁判でも納得できる結果が得られないことも多くなります。

 今回は、なぜこの点が問題なのかについて解説します。

特徴

 交渉の中で争いになることは、他にも慰謝料の額や後遺障害の認定など多数ありますが、こうしたものが争いになる場合、あくまでも金額が多いか少ないかといった相場感の問題や、証明するための資料が不足しているということが大半ですので、多少納得がいかないところがあったとしても、合意に至ることが多いです。

 これに対して、事故状況について双方の言い分が違う場合、通常は一方が真実を言っていて、他方が真実と違うことを言っているということになります。

 また、事実と違うことを言われて困るのは、通常被害者側です。

 そのため、被害者側の不満は、著しく大きなものとなります。

問題点

誰が証明するのか

 事故状況に争いがある場合、誰がこれを証明するのかが問題となります。

 被害者側の立場からすれば、「相手が嘘を言っているのだから、相手が自分の言い分を証明すべきだ」という気持ちになるでしょう。

 しかし、実際は、被害者側が、自分に有利になる事実を証明しなければなりません。

 なぜそうなるかは、自分が加害者にでっち上げられたようなことをイメージして見ると分かります。

 相手から突然車をぶつけられ、相手が加害者だと言ってお金を請求された場合に、請求された側がそうじゃないことを証明しなければならないとすると、不当請求が容易にまかり通ってしまいます。

 それでは困るので、請求をする側が事故状況などを証明するというルールになっています。

証拠がない

 ドライブレコーダーや第三者である目撃者といった証拠があれば、相手もそれを受け入れざるをえないため問題となることはほとんどありません。

 逆にいうと、事故状況が争いになっているということは、こういった決定的な証拠がないということを意味します。

 しかも、他の争点の場合、例えば被害者の収入状況など、「完全には立証できないものの、ある程度の証明はできている」ということが多いの対し、事故状況が争いになっている場合、0か100か(どちらが真実か)ということが多く、その意味で、ほとんど証明できていないのと同様の状態がしばしば見られます。

 そのような状態の中で、少しでも自分に有利な事情を探して証明いくことになります。

証明のハードルが高い

 証明するといっても、この類型では決定的な証拠がないことは既に述べたとおりです。

 そのような中で、裁判官(あるいは保険会社の担当者)に対して、どの程度までこちらの言い分が正しいと思わせる必要があるのでしょうか?

 「どちらが真実か」という観点からすれば、相手よりも少しでもこちらの言い分が正しいと思わせれば「勝ち」になるように思えます(実際、そういうイメージを持っている人は多いようです)。

 しかし、実際に求められている証明とは、それよりもはるかにハードルが高く、裁判官に「高度の蓋然性」を抱かせる、つまり確信を抱かせる程度の証明ができないといけません。

 この点は、多少裁判官によって感覚の違いがあるとしても、「多分こちらが正しいだろう」という程度では足りないということです。

 繰り返しになりますが、この類型では決定的な証拠はありませんので、事故状況に争いがある場合の証明は相当難易度が高いものとなっています。

 ただ、事故によっては、決定的とまではいえないものの、かなり有力な証拠がある場合があります。例えば、車の破損状況から、衝突の角度、強さが分かるような場合です。

 このようなケースであれば、裁判所もこちらの言い分を認める可能性が高まります。

問題の原因

 このようなケースでは、被害者は、「相手が嘘を言っているのが許せない」といって感情的になることが多く、その気持ちは十分に分かります。

 ただ、私の経験上、事実と異なることを言っている相手方も、嘘と分かって言っているケースはむしろ稀なのではないかと考えています。

 つまり、何らかの誤解や思い込みによって、事実と違うことを真実だと思ってしまっているということです。

 例えば、実際は徐行していなかったのに、「自分は普段から慎重に運転しているから徐行していたはずだ」とか、「自分は安全確認をしていたのだから、相手の方が速度違反していたんだ」といったものです。

 実際には、事故現場の見通しが悪かったり、安全確認といっても常に360度確認できるわけはないので、相手の車の動きを完全に見ていたわけではないのに(それができていれば事故は起きていない)、憶測でそう考えてしまっているということです。

 こうなってくると、相手も嘘を言っているつもりはないので(むしろこちらが嘘を言っているように思っている)、話をまとめるのが非常に難しくなります。

 認知機能が低下した高齢者が、このような思い込みをしているケースもあります。

解決策

 以上のように、事故に遭ったときに、敢えて嘘を言う者は決して多くない思いますが、思い込みから、事件の解決を困難にする者は一定数存在します。

 たまたま加害者がそういった相手かどうかは運によるとしか言いようがなく、そうなってしまった場合、実際にこちらの言い分を通すことは困難なことが多いです。

 結局、事前にそうした場合に備えてドライブレコーダーを設置するというのが、現状で考えられる最善の策であると思いますので、まだ取り付けていない人は、早めに取り付けることをおすすめします。私自身、自家用車にはドライブレコーダーを前後に取り付けています。